問題講評【生物I】

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1.総評

【2014年度センター試験の特徴】

・大問数や出題形式は昨年と同様であった。解答数は昨年に比べ1個減少して32個であった。
・実験を行ううえで考慮する条件を問う問題など、問い方の目新しい問題が一部で出題された。
・図や表、グラフの数が大幅に増加し、考察に時間を要する問題が多く出題された。昨年より難化。

 例年同様、生物Iの各分野からバランスよく出題された。教科書を中心とした内容が多く扱われているものの、データの処理や内容の吟味、考察に時間を要する問題が多く出題されたため、時間配分を意識して取り組めたかどうかで大きく差がつくと思われる。
 昨年に引き続き、教科書に掲載されている観察実験を題材とした問題が出題され、実験を行ううえで必要となる条件を考察させるなど、問い方の目新しい問題が出題された。

2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数は昨年と同じ5大問、解答数は昨年に比べ1個減少し32個。
【出題形式】 昨年同様、2中問形式で問われた。文章選択問題が17個、図・グラフ選択問題が3個出題された。また、組合せ問題が8個出題された。
【出題分野】 特定の分野に偏ることなく、幅広く出題された。
【問題量】 昨年に比べて図、表、グラフの数が大幅に増加(9→21)した。また、7択以上の問題は昨年から8個増加した20個であり、全体として昨年より増加。
【難易】 昨年より難化。

3.大問構成

第1問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
細胞と組織 20点 標準 A 細胞の構造、細胞膜の透過性
B 体細胞分裂
第2問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
生殖と発生 20点 標準 A 減数分裂、重複受精
B 発生のしくみと細胞質のはたらき
第3問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
遺伝 20点 A 複対立遺伝子
B 伴性遺伝、連鎖、組換え
第4問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
動物における刺激の受容と恒常性の維持 20点 やや難 A 聴覚と平衡感覚
B 両生類の変態とホルモン
第5問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
環境と植物の反応 20点 やや難 A 植物ホルモンのはたらきと屈性
B 花芽形成

4.大問別分析

第1問「細胞と組織」

● 第1問では、細胞に関する基本的な知識と理解、細胞分裂に関する理解や考察力が幅広く問われた。問い方の目新しい問題が一部でみられたものの、教科書を基本とした内容が中心であった。

● Aは、細胞に関する知識と細胞膜の透過性に関する理解を問う問題であった。細胞膜の物質輸送については、恒常性の分野の理解も必要であった。

● 問1は、真核細胞と原核細胞の特徴を問う問題であった。原核細胞と真核細胞の共通性や原核細胞からなる生物の名称など、原核細胞についての基本的な知識を問う問題が3年連続で出題された。

● 問2は、二重の膜で包まれている細胞小器官の組合せを問う、基本的な知識問題であった。

● 問3は、水を与えられずにしおれた植物を蒸留水に浸した際の、細胞の体積や膨圧の変化を問う問題であった。原形質の体積と浸透圧・膨圧の関係を表すグラフをイメージできていれば、正答を選択できる。

● 問4は、能動輸送などの細胞膜を介した物質輸送に関する問題であった。細胞膜のはたらきと魚類の浸透圧調節を絡めた出題であり、分野をまたいだ総合的な理解が求められた。

● Bでは、体細胞分裂の実験に関する問題が出題された。教科書に掲載のある観察実験をもとに、細かな知識や実験条件、細胞分裂に要する時間を問う問題であった。

● 問5は、体細胞分裂中期の染色体の特徴を問う問題であった。DNAの複製と染色体の関係や、体細胞分裂と減数分裂の違いについての知識や理解が問われた。

● 問6は、細胞分裂の各時期の所要時間を推定するために必要な三つの条件のうちの一つを問う問題であった。内容そのものは基本的であるが、実験条件の理解を問うという点で目新しい。近年、教科書に掲載のある観察実験がよく扱われているため、操作や手順の意味まで丁寧に理解しておきたい。

● 問7は、細胞分裂に要する時間と表1をもとに、核分裂の後期の長さを求める問題であった。基本的な内容ではあるが、後期に該当する細胞の図の判断に迷った受験生もいたと推測する。

第2問「生殖と発生」

● 第2問では、植物の重複授精と動物の発生のしくみについて、理解と考察力が問われた。AとBの両方で実験考察問題が出題されたため、やや解答に時間を要する受験生も多かったと推測する。

● Aは、被子植物の重複受精を中心とした生殖に関する問題であった。減数分裂に関する基本的な知識と、実験結果をもとに判断する力が問われた。

● 問1は、動物と植物の配偶子形成、および減数分裂に関する知識が求められた。基本的な内容であるが、選択肢の文を丁寧に吟味する必要があった。

● 問2は、教科書の知識、および与えられたデータ(表1と表2)を結びつけて考察する問題であった。実験そのものは目新しいが、花粉管を伸ばしている花粉の図(図1)が与えられていることや、実験結果のデータが少ないことから、選択肢の文と照らし合わせれば正答が選択できる。

● Bは、ホヤの卵を題材とした動物の発生のしくみに関する問題であり、生体染色や細胞質移植などの実験結果の意味を理解する力が問われた。黄色細胞質と筋細胞の関係が理解できれば判断しやすい。

● 問3は、モザイク卵の性質を示す実験を選択する基本的な知識問題であった。2012年度本試験では両生類の卵が調節卵であることを示す実験を選択する問題が出題されたため、過去の問題で演習を行っていた受験生には取り組みやすい問題だったと推測する。

● 問4は、与えられた実験結果から導かれる考察として誤っているものを問う問題であった。複数の実験が扱われているため、一つひとつの実験結果から判断できることが何であるかを正確に理解し、選択肢と照らし合わせることが求められた。

● 問5は、筋細胞分化と細胞質の関係を詳しく調べるための実験と予想される結果を問う問題であった。問4で扱われた選択肢が問5の選択肢を理解するための誘導になっていることに気づけるかどうかで差がついたと推測する。

第3問「遺伝」

● 第3問では、複対立遺伝子や遺伝子の連鎖・組換えについての実験考察問題が出題された。基本的な知識を問う問題がなく、遺伝子記号の設定やデータの処理など解答を進めるうえで判断に迷う内容や、繁雑なデータの処理が必要な問題が扱われた。類似の問題で演習を行っていたかどうかによって大きく差がつくと思われる。

● Aは、アサガオの葉を題材とした複対立遺伝子に関する問題であった。

● 問1は、下線部アのF1と下線部イのF1を交雑して得られる種子をまいたときの、アサガオの葉の表現型の分離比を求める問題であった。問題文で遺伝子記号が与えられていないため、自身で複対立遺伝子に遺伝子記号の設定を行い、遺伝子型を整理することが必須であった。

● 問2は、問1で得られた結果をもとに、二つの遺伝子型それぞれの自家受精の結果を合計して分離比を求める問題であった。自家受精の結果を合計する際にはもとの遺伝子型の割合にも注意をはらうなど、判断に慎重さを要するポイントが含まれていた。

● Bでは、X染色体上の三つの遺伝子の連鎖について問われた。二重乗換えを含む結果をもとに考察しなければならず、データを素早く処理する力が求められた。

● 問3は、与えられた実験で生まれたF2の雌のうち、三つの劣性の形質をもつ個体の割合を求める問題であった。X染色体上に連鎖した遺伝子の関係を含めて交配を表す家系図を描けるかどうか、さらにF1の雄の1本のX染色体上には三つの優性遺伝子が存在することに気づけるかどうかで大きく差がついたと思われる。

● 問4は、野生型赤眼遺伝子Gと野生型翅遺伝子Mとの間の組換え価を求める問題であった。表1のどの数値をまとめればよいかの判断ができれば、組換え価を求める計算式に当てはめることができる。

● 問5は、X染色体上における三つの遺伝子の並び方を問う問題であった。問4を参考に他の遺伝子の組換え価を求めればよいが、扱われているデータが多いため素早く正確に処理する力が求められた。

第4問「動物における刺激の受容と恒常性の維持」

● 第4問では、刺激の受容と恒常性に関する知識と理解、考察力が問われた。AとBの両方で細かな内容を問う知識問題が出題されており、判断に迷う受験生も多かったと推測する。

● Aでは、聴覚器および平衡感覚器としてのヒトの耳の構造、および感覚の生じるしくみについて、細かな知識と理解が問われた。

● 問1は、聴覚に関する知識と理解を問う問題であった。大脳の髄質と皮質(白質と灰白質)、音の高低による基底膜の振動部位、適刺激となる音の振動数の範囲の違いなど細かな内容が多く、正確な知識が求められた。

● 問2は、ヒトの耳の構造とその名称を問う問題であった。耳管(エウスタキオ管、ユースタキー管)というやや細かな知識が問われた。

● 問3は、平衡感覚器としての耳のはたらきが問われ、前庭と半規管に関する正確な知識と理解が求められた。

● Bは、両生類の変態とホルモンの関係について実験結果から考察する問題であった。

● 問4は、実験結果から二つのホルモンのはたらきや相互作用を問う問題であった。変態が誘起されたとみなす条件を図3に当てはめたうえで、表1、図3、および選択肢を丁寧に吟味する必要があった。

● 問5は、器官の除去と変態に関する知識を問う問題であった。甲状腺ホルモンの分泌に関係する器官を過不足なく選択しなければならないことや、問4で糖質コルチコイドが扱われていたことから、含める器官の判断に迷う受験生も多かったと推測する。

● 問6では、ヒトにおけるホルモンのフィードバックが問われた。脳下垂体の前葉と後葉における、神経分泌細胞(gとh)や毛細血管の分布というやや細かな知識が求められた。

第5問「環境と植物の反応」

● 第5問は、植物ホルモンと花芽形成に関する知識と理解、考察力が問われた。与えられたデータの数や吟味が必要な選択肢が多く、解答に時間を要する。時間配分が適正に行えたかでも差がついたと推測する。

● Aは、光屈性と重力屈性に関する問題であった。図をもとに判断する問題では、選択肢の数が多く慎重に判断する必要がある。

● 問1は、植物ホルモンのはたらきを問う基本的な知識問題であった。植物ホルモンのはたらきに関する基本的な知識を問う問題は、3年連続の出題であった。

● 問2は、光屈性のしくみについての知識と理解を問う問題であった。一つひとつの選択肢を丁寧に読む必要があり、判断にやや時間を要する。

● 問3は、根の屈曲に関する問題であった。茎や根の細胞の伸長とオーキシン濃度の関係のグラフについての知識と、根の重力屈性のしくみについての知識を結びつけることが必要であった。

● Bは、花芽形成に対する日長や温度の影響に関する問題であった。多くの条件での実験結果を扱っているため、結果を整理して理解する力が求められた。

● 問4は、三つの植物(植物X、Y、Z)における花芽形成のデータをもとに考察する問題であった。それぞれの植物が長日植物か短日植物かの判断を行い、さらに日長のデータから限界暗期を求めることが必要であり、解答に手間がかかる。

● 問5は、与えられた実験をもとに花成ホルモンの移動や異なる種間での作用などを考察する問題であった。与えられたデータや選択肢の数が多く、自信をもって正答を選択するためには表1と表2を丁寧に確認する必要があり、判断に時間を要する。

5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

年度 2013 2012 2011 2010 2009
平均点 61.31 64.00 63.36 69.70 55.85

6.2015年度センター試験攻略のポイント

● 2015年度センター試験からは、新教育課程の「生物基礎」と「生物」が出題される。

● 【生物基礎】

● 生物基礎の全範囲から、知識、理解、考察力をバランスよく問う問題が出題されると予想される。教科書に記載されている基本事項は確実に理解しておきたい。

● 観察実験の設定など科学的思考力を問う問題が出題されると予想される。探究活動を通じて、科学的な素養を身につけておきたい。

● これまで理科総合Bで出題されてきたような、社会や日常生活と生命現象の関連を意識した問題が出題されると予想される。学習した内容を身近な社会問題や環境問題に当てはめるなど、知識を応用して判断する学習に慣れておきたい。

● 【生物】

● 生物の幅広い範囲から、知識、理解、考察力をバランスよく問う問題が出題されると予想される。教科書をまんべんなく学習し、苦手分野をつくらないよう心がけておきたい。

● 生物では、生物Iと比較すると複雑な内容や、生物IIで扱われていた内容が多く扱われているため、実験考察問題を中心にこれまでよりも深い理解が求められる可能性がある。分野間のつながりを意識した学習や、実験考察問題での演習を行っておきたい。

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