問題講評【物理I】

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1.総評

【2014年度センター試験の特徴】

・例年と同様に、物理Iの全分野から幅広く出題された。
・昨年に比べて問題ページ数、および7択以上の問題が減少しており、全体的に問題量が減少した。
・見慣れない題材が多いが、問題文でヒントを与えるなど、問題設定や条件に工夫がみられた。

 物理Iの全分野から幅広く出題された。昨年に比べて問題ページ数が減少(26→22)し、6択の問題が増加(8→11)、7択以上の問題が減少(6→1)した。ベルトコンベアによる物品の搬送を用いたドップラー効果の考察など、見慣れない題材を用いた出題が多いが、問われている内容は標準的であり、また、問題文でヒントを与えるなどの工夫がみられた。難易は昨年並であった。

2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数は昨年と同様に4大問。解答数は昨年より1個減少し22個。
【出題形式】 昨年に比べてグラフ選択問題が減少(3→1)した。また、6択の問題が増加(8→11)し、7択以上の問題が減少(6→1)した。
【出題分野】 特定の分野に偏ることなく、幅広く出題された。
【問題量】 昨年に比べて問題ページ数が減少(26→22)した。
【難易】 昨年並。

3.大問構成

第1問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
小問集合 30点 やや易
第2問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
電気 20点 標準 A 交流電圧の観察、変圧器
B 磁場中の金属棒が受ける力
第3問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
20点 標準 A ドップラー効果の考察
B 閉管の気柱の共鳴
第4問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
運動とエネルギー 30点 標準 A アトウッドの装置、運動方程式
B 重心、力のモーメント
C 気体の状態変化

4.大問別分析

第1問「小問集合」

● 電気、波、運動とエネルギーの各分野からバランスよく出題された。

● 問1は、力学的エネルギー保存の法則の理解を問う基本的な問題であった。問題文から小物体が鉛直上方に飛び出すことを読み取り、素早く解答したい。

● 問2は、落雷という自然現象を題材として、落雷の際に棒で消費される電気エネルギーを計算する問題であった。「電気エネルギー=電力量」であることに気づくかがポイントである。数値が工夫されているため、計算量は多くない。

● 問3では、赤色と青色の光がレンズで屈折するときの現象(分散)について問われた。屈折率の大小関係に関する知識がなくても正答に到達できるように、問題文が工夫されていた。

● 問4では、身近な素材であるアルミ箔を用いた実験を題材として、電流がつくる磁場、電流が磁場から受ける力についての理解が問われた。この実験をみたことがあれば解答しやすい。

● 問5は、弦の固有振動とうなりを融合させた問題であり、この素材でうなりを問う点が目新しい。コマを動かすことにより、うなりがどのように変化するかを見極められるかがポイントであり、物理的思考力が求められる。基本振動数が正答できていれば部分点が与えられた。

● 問6では、力のモーメントのつり合いについての理解が問われた。一見すると設定は難しそうにみえるが、うでの長さに気がつけば基本的な問題といえる。解法によって解答時間に差がつくであろう。棒の長さは関係ないので、惑わされないようにしたい。

第2問「電気」

● Aは、オシロスコープを用いた交流電圧の観測、電力輸送、および変圧器による送電線の電力損失を題材にした出題であった。

● 問1は、オシロスコープで観測される電圧の波形を選択する問題であった。変圧器によって電圧を1/10に下げても周波数は変わらないことと、周波数を周期に換算できるかがポイントである。目盛りの読み取りまで求められる点で目新しく、図から正しくデータを読み取る力が求められる。

● 問2は、変圧器による電流変換に関する問題であり、電熱器を流れる電流を求めることができるかがポイントである。1次コイル側と2次コイル側の電力が等しく保たれることを読み落とさず、素早く正確に計算する力が求められる。2010年度の本試験第2問で類似の問題が出題されていたが、今年の問題は電力の数値から電流を求める必要があり、やや難しい。

● Bでは、磁場中の3本のレール上に置かれた金属棒を題材として、電流が磁場から受ける力やレンツの法則についての理解が問われた。レールが2本ではなく3本である点が目新しい。2008年度の本試験第3問で類似の問題が出題されていたが、今年の問題はレールの設定がやや複雑になっているため、電流の流れ方の見極めに注意が必要である。

● 問3では、電流が磁場から受ける力についての理解が問われた。設定は見慣れないが、問われていること自体は標準的な内容である。

● 問4では、磁場の強さを急激に増加させた場合の、金属棒の動きが問われた。磁場の強さを増加させているので、閉回路の面積を小さくするように金属棒が動くことを考察できるかがポイントである。

第3問「波」

● Aは、ドップラー効果の原理を、ベルトコンベアによる物品の搬送に対応させて考える目新しい設定の問題であった。

● 問1は、作業者Aが静止している場合と動く場合における箱の状況を考察する問題であった。箱の搬送される速さは作業者Aの移動する速さによらず一定であることに気づくかがポイントである。箱の間隔、あるいは箱を受け取る時間間隔のどちらかの要素が正答できていれば部分点が与えられた。

● 問2は、ベルトコンベアによる物品の搬送とドップラー効果との対応関係を考察させる問題であった。考察のテーマとする物理現象と直接には結びつかない題材を用いて、現象の原理を考察させる点が目新しい。

● Bは、閉管の気柱の共鳴を題材とした、定常波(定在波)に関する問題であった。新課程の教科書から使用されている物理用語「定在波」が定常波に併記されていた。

● 問3では、閉管内に定常波が生じている場合の、音源の振動数が問われた。1/2波長が20 cmになることを見極められるかがポイントであり、基本振動と判断してしまうと誤答を選択してしまうので注意が必要である。

● 問4では、気柱の長さを変化させた場合の振動数について問われた。常に共鳴が起きる状況でピストンを移動させる設定が目新しい。閉管内に発生している定常波をイメージし、振動数×波長が一定であることを用いて解いていけばよい。

第4問「運動とエネルギー」

● Aは、アトウッドの装置につり下げられた物体の運動を題材にした出題であった。

● 問1では、物体Aの加速度について問われた。装置がやや複雑であるが、惑わされることなく運動方程式を正しく立式できるかがポイントである。見慣れない設定でも、基本に忠実に解答すればよい。

● 問2は、物体Aの運動について、速さと時刻の関係を表すグラフを選択する問題であった。等加速度運動から等速度運動に変化すること、グラフの傾きが加速度を表すことを見極めることができれば、定性的に正答に到達できる。

● Bでは、質量の異なる二つの棒を題材として、重心や力のつり合いについての理解が問われた。

● 問3では、二つの棒それぞれの重心の位置がわかっている場合の、全体の重心の位置が問われた。基本的な問題であるが、重心を求める問題は本試験では目新しい。

● 問4は、重心のまわりにおける力のモーメントのつり合いの式を用いることができれば考えやすい。問3ができなくても解答できるように設定が工夫されている。

● Cでは、J字形をした管に注入された液体を題材にして、液体のつり合いや気体の状態変化について問われた。

● 問5では、液体のつり合いについての理解が問われた。同じ高さの水平面では圧力が等しいことに気づくかどうかがポイントである。水圧に関する問題は苦手とする受験生が多いことが予想されるため、差がつくであろう。

● 問6では、気体の温度が一定の場合の、気体の体積と圧力の関係についての理解が問われた。問題文から温度が一定であることを読み取り、ボイルの法則を正しく適用できるかがポイントである。

● 問7では、気体の圧力が一定の場合の、気体の温度と体積の関係についての理解が問われた。気体の圧力が一定になることを見極めてシャルルの法則を適用すればよいが、圧力の見極めはやや難しかったであろう。

5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

年度 2013 2012 2011 2010 2009
平均点 62.70 68.03 64.08 54.01 63.55

6.2015年度センター試験攻略のポイント

● 2015年度センター試験からは、新教育課程の「物理基礎」と「物理」が出題される。

● 【物理基礎】

● 物理基礎の全範囲から幅広く出題されることが予想される。なかでも力学は、物理を学習するうえでの基礎となる分野であり、教科書で扱われている分量も多いため、ほかの分野に比べて出題割合が高くなるであろう。

● 日常生活や社会における物理現象を題材とした観察、実験が多く扱われることが予想されるため、日ごろから、身近な物理現象の仕組みについて考察する機会を設けておきたい。

● 【物理】

● 物理の幅広い範囲からバランスよく出題されることが予想されるため、苦手分野をつくらないようにまんべんなく学習しておく必要がある。

● 2014年度までのセンター試験の問題の多くは基本的な問題であり、新教育課程になっても物理の出題方針は物理Iを踏襲することが予想される。このため、まずは基本事項を確実に理解しておくことが大切である。

● 新学習指導要領に従い、観察、実験などを題材として、物理学的に探求する力をみる問題が出題されることが予想される。日ごろから、実験や探究活動に積極的に取り組み、物理現象についての理解を深めておきたい。

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