問題講評【日本史B】

PDF

1.総評

【2014年度センター試験の特徴】

・昨年同様、さまざまな資料を用いて原始・古代から現代までの内容が幅広く出題された。
・社会経済史の割合が昨年より増加した一方、政治史・外交史・文化史の割合はそれぞれ減少した。
・人物史が復活し、手塚治虫をテーマとした大問がみられた。
・歴史的事象の正確な時期判断を求める問題が散見されたが、基本事項が中心であったため、難易は昨年よりやや易化した。

 例年同様、幅広い時代から出題され、戦後史は昨年から1問増加した。分野は社会経済史の割合が増加した一方、政治史・外交史・文化史の割合は減少した。地図、写真、グラフ、漫画など、昨年同様多彩な資料が用いられた。また、昨年みられなかった人物史が、手塚治虫をテーマとして第6問で出題された。難易については、正確な時期判断を求める問題が散見されたが、基本事項が中心であったため、昨年よりやや易化した。なお、日本史Aとの共通問題は2大問(35点分)であり、昨年からの変更はなかった。

2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数6、解答数36個で昨年から変更なし。第5問・第6問は日本史Aとの共通問題。
【出題形式】 6択の年代整序の問題は2問増加し、5問。2文の正誤判別問題は6問で昨年から変更なし。地図、写真、グラフ、漫画など多彩な資料が扱われた。
【出題分野】 社会経済史の割合が昨年より高まった。近現代史の割合は昨年並。戦後史は昨年から1問増加し、4問であった。
【問題量】 昨年並。
【難易】 昨年よりやや易化。

3.大問構成

第1問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
保存された古文書からみる歴史 12点 標準 大学生による会話文(古文書の写真、産業別就労者の構成比のグラフ)
第2問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
原始・古代の社会・国家と交通との関係 18点 標準 A 原始・古代の社会・政治(地図、『魏志』倭人伝)
B 律令制下の交通や国司制度(『万葉集』)
第3問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
中世の政治・経済・文化 18点 標準 A 源平の争乱や中世の文化(栄西の書状)
B 室町時代の文化・社会経済(柳生徳政碑文など)
第4問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
近世の文化・外交 17点 標準 A 近世の文化・社会経済(『西遊記 補遺』)
B 近世の外交・文化(地図)
第5問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
明治期の租税制度 12点 やや易 明治期の社会経済・外交(主要租税収入の表)
第6問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
手塚治虫と近現代の政治・社会経済 23点 標準 A 昭和初期の社会経済・政治
B 昭和初期から太平洋戦争にかけての外交・社会経済(手塚治虫『紙の砦』
C 戦後の政治・社会経済(手塚治虫『ぼくはマンガ家』)

4.大問別分析

第1問「保存された古文書からみる歴史」

● 現行課程で重視されている「主題学習による歴史の考察・解釈」の要素を反映した出題で、例年同様にテーマ史が出題された。博物館に展示されている古文書をテーマとした会話文をもとに、政治史や社会経済史を中心に古代から戦後まで幅広く出題された。古文書の写真やグラフなど、多彩な資料が用いられたが、その読解は求められておらず、標準的な難易の大問であった。

● 問2は、足利直義に関する文章選択問題であった。初期の室町幕府における、足利直義と足利尊氏の役割分担に関する理解が問われており、判断が難しい。リード文中の「足利直義の出した判決文」という記述も正答を導く手掛かりであった。

● 問4は、江戸時代の教育に関する2文の正誤判別問題であった。閑谷学校に関する事項は基礎的であるが、懐徳堂に関してやや迷った受験生もいたであろう。懐徳堂は町人の出資で設立されたことや、その場所が大坂であることがポイントであった。郷学や私塾の特徴を整理しておくことが求められた。

● 問6は、産業別就労者の構成比の推移を示したグラフを扱った文章選択問題であった。各文中にある、1940〜1970年代の出来事についての正確な時期判断が求められ、苦戦した受験生も多かったであろう。

第2問「原始・古代の社会・国家と交通との関係」

● Aでは原始・古代の社会・政治について、Bでは律令体制下の交通や国司制度について出題された。受験生の苦手とする地図や史料を用いた問題に加え、年代整序の問題がみられたが、比較的平易な内容が扱われており、標準的な難易の大問であった。

● 問1は地図を用いて、縄文時代の遺跡の位置が問われた。三内丸山遺跡や大森貝塚の位置は基礎的な内容であり、受験生は自信をもって正答を選べたであろう。

● 問2は、『魏志』倭人伝に関する文章選択問題であった。史料を読まなくても、卑弥呼に関する基礎的な知識をもとに誤答と判断できる選択肢があり、また脚注が大きな手掛かりとなることから、取り組みやすい問題であった。

● 問4は、万葉集と出挙の語句組合せ問題であった。万葉集を選択することは平易だが、空欄前後の文脈から積極的に出挙を判断することは難しく、多くの受験生は空欄の前にある「春」という記述から正答を導いたであろう。

第3問「中世の政治・経済・文化」

● Aでは源平の争乱や中世の外交について、Bでは室町時代の文化・社会経済について出題された。一部、正誤判断が難しい問題もみられたが、全体的には標準的な難易の大問であった。

● 問1は、源平の争乱に関する文章選択問題であった。文中の平氏の西国への敗走という記述から源義仲の倶利伽羅峠の戦いを想起し、頼朝の東国支配権の獲得との前後関係を判断することが求められた。

● 問6は、正長の徳政一揆に関する2文の正誤判別問題であった。「カンヘ四カンカウ(神戸四箇郷)」が惣村の連合組織であることの判断が難しい。教科書に記載のある史料ではあるものの、やや細かな内容であり、苦しんだ受験生も多かったであろう。

第4問「近世の文化・外交」

● Aでは近世の文化・社会経済について、Bでは近世の外交・文化について出題された。第2問と同様、受験生の苦手とする地図や史料を用いた問題がみられたが、正誤判断はそれ程難しくなく、標準的な難易の大問であった。

● 問1は、初見の史料(『西遊記 補遺』)を用いた語句組合せの問題であった。史料文中には「天草」や「宗門改め」などの明確なキーワードが与えられており、受験生は迷うことなく正答を導けたであろう。

● 問3は、近世の印刷物に関する6択の年代整序の問題であった。各文中にある「宣教師」「浮世草子」「錦絵」というキーワードに着目し、それぞれの時代を特定することがポイントであった。判断ポイントが明確であり、また各時代が離れていることから、6択であるものの、標準的な難易の問題であった。

● 問6は地図を用いて、日米和親条約によって開かれた港と、モリソン号事件の発生した位置が問われた。モリソン号事件の発生した位置はあまり扱われることが少ないため、戸惑った受験生も多かったであろう。フェートン号事件やラクスマン来航など、混同しやすい事項とその位置関係を丁寧に整理しておくことが求められた。

第5問「明治期の租税制度」

● 明治期の税制をテーマとした大問であり、社会経済・外交について出題された。平易な設問が多いことから、やや易しい大問であった。

● 問3は、地租改正に関する正文組合せの問題であった。地租は地価の3%を金納するという、地租改正の一つの要点に関する知識だけで誤答を判断することができ、受験生はあまり時間を要することなく正答を導けたであろう。

● 問4は、租税収入の推移を示した表を用いた2文の正誤判別問題であった。関税自主権の完全回復が小村寿太郎の事績であることを想起し、その時期を判断することがカギであった。

第6問「手塚治虫と近現代の政治・社会経済」

● 昨年みられなかった、人物をテーマとした出題が復活し、手塚治虫を取りあげて近現代の政治と社会経済が出題された。リード文中に漫画が用いられるなど、日本史Bとしては目新しい出題であり工夫がみられた。戦後史に関するやや細かな事象が扱われたが、全体的には標準的な難易の大問であった。

● 問4は、太平洋戦争の展開に関する6択の年代整序問題であった。ミッドウェー海戦と原子爆弾の投下の時期判断は易しいが、カイロ宣言の時期判断に悩んだ受験生もいたであろう。年号の暗記ではなく、一連の事象を流れで把握しておくことが求められた。

● 問8は、戦後の科学技術と社会問題に関する文章選択問題であった。日本学術会議など、やや細かな知識が求められ、その判断で戸惑った受験生も多かったであろう。一方、革新自治体が誕生した背景を想起すれば誤答と判断できる選択肢もある。消去法も駆使し、粘り強く正誤判断を続ける必要があった。

5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値) 

年度 2013 2012 2011 2010 2009
平均点 62.13 67.92 64.11 61.51 57.94

6.2015年度センター試験攻略のポイント

● センター試験では例年、各時代・各分野からまんべんなく出題されているので、苦手な時代・分野をつくらないことが大前提である。テーマ史も毎年出題されているので、「教育史」「法制度史」「信仰・宗教史」といった頻出のテーマにも注意したい。また、学習がおろそかになりやすい戦後史は、近年比較的新しい時代も含めて出題が続いている。文化史を含めて1990年代までの動向をおさえておきたい。

● 内容に関しては、文章の正誤判断を求める問題が中心である。歴史用語の正確な内容理解が問われることも少なくない。また、特定の時代の動向・展開や、あるテーマにもとづく時代横断型の出題、時系列の理解を問う出題、歴史的思考力を問う出題が傾向としてあげられる。これらの問題は単語の暗記のみでは対応できないため、関連する項目の因果関係を把握したうえで歴史の流れを整理し、同時代の出来事についても政治史を軸に各分野の内容をとらえておきたい。また、共通点・テーマを設定して歴史全体を縦断的に見渡すことも心がけたい。

● センター試験では、学習指導要領で重視されている「歴史と資料」に対応した史料の読み取り問題や図版の読み取り問題が出題されることが多いので、今後もしっかりと対策を行っておきたい。まずは教科書の内容理解とあわせて、関連する史・資料をしっかりと確認し、初見の史・資料が出題された場合でも落ち着いて取り組めるようにしておきたい。また近現代史では、文献史料だけでなくグラフや表などの統計資料を確認しておくことも重要である。

問題講評へ

データネット実行委員会 駿台予備学校/ベネッセコーポレーション