問題講評【世界史A】

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1.総評

【2014年度センター試験の特徴】 

・前近代および近世からの出題が増加し、近現代からの出題が減少した。戦後史を含む近現代からの出題が全体では昨年の7割から今年は5割程度となった。
・政治史の出題が増加した。
・ヨーロッパ史が増加したものの、アメリカ史の出題が減少し、欧米と非欧米の割合は昨年並であった。

 大問構成、解答数は昨年から変更なし。出題形式にも大きな変化はなかったが、地図問題が3問出題された。時代の偏りはあるものの、分野・地域についてはバランスがとれていた。人や物の移動から各国の歴史を関連付けて考えさせる設問や、アフリカ・東南アジアといった、いわゆる周辺地域について地図を用いて位置確認を問う点が特徴的であった。そのため、写真や地図なども含めた丁寧な学習を要する出題は例年より多くみられた。近現代史を中心とする世界史Aの基本的性格から考慮すれば、前近代史の割合の増加は受験生に影響を与えたかもしれないが、平易な問題も見受けられたことから、難易は昨年よりやや易化した。

2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数3、解答数33個は昨年から変更なし。
【出題形式】 昨年より文章選択問題が15問から11問に減少し、正誤組合せが5問から7問に増加した。昨年出題されていなかった地図問題が3問出題され、図版を使用した問題も1問出題された。
【出題分野】 時代については、前近代と近世が大幅に増加し、戦後を含めた近現代からの出題が減少した。地域については、欧米史のうち西欧史の比重が高くなった。アジア史・アフリカ史では、東アジアが減少したが、全体として地域の偏りは少なくなった。分野については、社会経済史が減少する一方、政治史が増加した。文化史は昨年並。
【問題量】 昨年並。
【難易】 昨年よりやや易化。

3.大問構成

第1問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
歴史上の人や物の移動 34点 やや難 A 前近代の東アジアにおける様々な船
B 近世における大西洋三角交易の形成
C イギリスと移民の関係
第2問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
世界史上の戦争と戦後処理 33点 標準 A 戦争目的の変容
B 時代とともに拡大する戦争被害
C 戦後処理とその課題
第3問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
世界史上の文化の交流や伝播 33点 やや易 A 東アジアにおける仏教の定着
B ユダヤ教とイスラームの文化交流
C キリスト教の聖ヤコブ崇拝の拡大

4.大問別分析

第1問「歴史上の人や物の移動」

● Aでは前近代の東アジアにおける様々な船、Bでは近世における大西洋三角貿易の形成、Cではイギリスと移民の関係がテーマとされた。リード文のテーマをもとに、各地域・時代・分野のグローバルな結びつきについて、融合的に問われた。

● 問1では、アジアの海域ネットワークで用いられたジャンク船とダウ船について,これを使用した人々についての知識と船の特徴の理解がポイントであった。教科書や図説などを用いて、日頃から図版や写真を確認している受験生にとっては容易であっただろう。

● 問3では、朝鮮半島についての通史的な理解が問われた。朝鮮半島における各時代の大きな流れと各時代の出来事を整理しておく必要があった。1897年に朝鮮王朝が大韓帝国に改称したという事項は,受験生にとってはあまりなじみがなく判断に悩んだであろう。

● 問6では、アフリカ分割についての基本的な知識が地図を用いて問われた。エチオピアとリベリアが独立を保持していたことは基本的事項であるが、その位置をおさえているかがポイントとなった。日頃から地図などを用いて学習をしていなかった受験生にとっては、難しい問題であった。

● 問7では、戦後のアメリカの大統領と関連する事件を理解しているかがポイントとなった。人物と関連事項をセットでおさえておけば、容易に解答できた。

● 問8では、オセアニア史についての内容の正誤判断が求められた。受験生にとって、先住民がマオリ人であるということはあまりなじみがなかったかもしれないが、ハイチの独立やタンジマート、アパルトヘイトといった他地域の歴史事項の内容を整理できていれば難しくはないであろう。

● 問9では、アメリカ大陸原産の農作物について問われ、ジャガイモがアメリカ原産であることをおさえておく必要があった。身近な物と歴史との関わりから問う世界史Aの特色が出ている設問であった。

● 問10では、アメリカ合衆国における移民や先住民に関する知識が問われた。移民法は移民の制限、強制移住法が先住民を対象にしていることを理解していたかがポイントとなった。

第2問「世界史上の戦争と戦後処理」

● 政治史中心の出題で、Aでは戦争目的の変容、Bでは時代とともに拡大する戦争被害、Cでは戦後処理とその課題を例にあげ、政治や社会経済についてリード文のテーマに密接に関連した事項が問われた。

● 問1では、中国諸王朝と周辺諸民族との関係について問われた。漢と周辺諸民族に関する事項を整理できていれば、匈奴を導き出すことは容易であったであろう。

● 問2では、労働力の国際的な移動や女性の社会進出について問われた。苦力(クーリー)という用語は、教科書によっては出稼ぎ労働者と記されており、受験生にとってはその判断が難しかった。

● 問3では、イギリスの東南アジアにおける植民地拠点が地図上で問われた。列強の勢力範囲を把握できていれば、正確な位置まで理解しなくとも解答できたであろう。

● 問5では、16世紀に起こった出来事が地域横断的に問われた。ナポレオンがフランス革命以降の人物であることが理解できれば16世紀の出来事ではないと判断できた。各選択肢の内容ではなく時期を判別させるものは受験生が苦手とするところではあるが、例年出題がみられているので、注意が必要である。

● 問8では、第二次世界大戦前のドイツの領土拡大に関する知識が問われた。基本的な問題ではあるが、戦争前後の条約や会談などは混同しないよう整理しておきたい。

第3問「世界史上の文化の交流や伝播」

● Aでは東アジアにおける仏教の定着、Bではユダヤ教とイスラームの文化交流、Cではキリスト教の聖ヤコブ崇拝の拡大を例にあげ、リード文のテーマと関連した各地域、時代における政治・社会経済・文化の知識が問われた。特に宗教、文化が中心に問われた。

● 問2では、東アジアにおける仏教の伝播について問われた。冊封体制を基礎に中国の文化が周辺地域に広まっており、大乗仏教が朝鮮へ伝播したことをおさえていれば、朝鮮から仏教を受容した日本も同じく大乗仏教が伝播していたことが判断できた。当時の支配体制などにも注目し、周辺国との関係性についても整理しておくことが求められる。

● 問4では、世界史に日本の歴史を関連付けながら考えることが求められ、世界史Aの学習指導要領に沿った設問であった。世界史学習におけるヨコのつながりを意識し、奈良時代に遣唐使が日本から派遣されていた点、ササン朝美術が中国・日本に伝えられていたことを結びつけることができたかがポイントであった。

● 問10では、第1回十字軍がイスラーム勢力から奪還したイェルサレムの位置が求められた。第4回十字軍が占領したコンスタンティノープルと迷う受験生がいたかもしれないが、今回の問題ではイスラーム世界の勢力範囲の変遷を地理的な視点から理解していれば、アラビア半島にあるイェルサレムが正答であると判断できた。

● 問11では、選択肢の説明からゴヤが描いた5月3日の処刑の絵が想起できていなければ、解答することは難しかった。日頃から図説などを確認し、歴史的史料が当時のどのような社会的状況を訴えているのかを考える必要があった。

5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

年度 2013 2012 2011 2010 2009
平均点 46.67 43.62 48.42 52.31 44.18

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