問題講評
データネット2010
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化学I

1.総評

【2010年度センター試験の特徴】

・例年と同様に、全範囲から幅広く出題され、小問形式で問われた。
・構造決定問題とグラフ選択問題が、それぞれ複数出題された。
・昨年出題されなかった7択以上の問題が4個出題された。


 昨年同様、4大問構成であり、小問形式で問われた。昨年出題されなかった7択以上の問題が4個出題され、グラフ選択問題が2個出題された。特定の分野に偏ることなく出題されたのは例年と同様であるが、2010年度は地球環境問題に関連した問題や、有機化合物の構造決定問題などが出題された。全体的に、題意の把握や計算に時間を要する問題が多く、標準的な知識に加えて応用力を問う傾向がみられた。
2.全体概況

【大問数・解答数】 大問構成は昨年と同じ4大問。解答数は、各大問で昨年と変わらず、全体として28個。
【出題形式】 昨年に比べて、文章選択問題が4個減少した。また、昨年出題されなかったグラフ選択問題が2個出題された。
【出題分野】 例年同様、特定の分野に偏ることなく、幅広く出題された。
【問題量】 昨年と比べて、5択の問題が5個減少し、6択の問題が1個増加した。また、昨年出題されなかった7択の問題が1個、8択の問題が3個出題された。
【難易】 昨年より難化。
3.大問構成

大問 出題分野・大問名 配点 難易 備考(使用素材・テーマなど)
第1問
物質の構成
25点
標準
第2問
物質の変化
25点
標準
第3問
無機物質
25点
やや難
第4問
有機化合物
25点
やや難
4.大問別分析

第1問「物質の構成」

  • 物質の構成と性質、水の状態変化、原子のイオン化エネルギー、物質の構成粒子、二酸化炭素の発生量、燃焼における量的関係、身のまわりの材料について、例年と同様に小問形式で問われた。
  • 問1aは、分子からなる物質を選択させる問題であった。内容は基本的であるが、式量と分子量の違いを正確に理解しておく必要がある。bは、乾燥剤として用いることができない物質を選択させる問題であった。
  • 問2は、水の状態変化の名称について問うた、基本的な問題であった。
  • 問3は、イオン化エネルギーに関するグラフ選択問題であった。受験生にとって見慣れないグラフが、選択肢に含まれていた。
  • 問4では、水分子中の陽子、電子および中性子の数について、関係式で問われた。
  • 問5は、自動車からの二酸化炭素排出をテーマとした計算問題であった。人類が直面している課題(地球環境問題)を意識させながら、読解力と計算力を合わせて問うており、工夫されている。燃料中の炭素の質量と、発生した二酸化炭素の質量を求める必要があり、計算はやや煩雑である。
  • 問6は、身のまわりの材料に関する、文章選択問題であった。

    第2問「物質の変化」

  • 水酸化カリウムの溶解熱、酸・塩基および塩の水溶液、酸化還元反応、電池の原理について、例年と同様に小問形式で問われた。
  • 問1は、ヘスの法則を用いて水酸化カリウムの溶解熱を中和熱から求めさせる計算問題であった。計算条件を正しく読み取り、酸の価数に注意して計算する必要があるため、解答には時間を要する。
  • 問2は、リトマス紙を用いた実験を題材にした、化学Iとしては珍しい出題であった。aは、塩の水溶液の性質に関する典型的な問題であるが、水溶液の性質をリトマス紙の変化から考察させる点が目新しい。bは、水酸化物イオンの電気泳動について、リトマス紙の色の変化から考察させる問題であった。
  • 問3aは、過マンガン酸カリウムと過酸化水素水の酸化還元反応における量的関係を問うた、典型的な問題であった。bも、気体の発生と酸化還元反応に関する典型的な問題であった。
  • 問4は、電池の原理に関する基本的な出題であった。aは、「水素が発生する電池」という記述からボルタ電池を考えた受験生にとっては、比較的取り組みやすい問題であったかもしれない。bは、鉛蓄電池の両極で起こる変化について、反応式の項を問うた、組合せ選択問題であった。選択肢は迷う要素が少なかった。

    第3問「無機物質」

  • 窒素酸化物、金属イオンの沈殿、単体(ハロゲン、金属)の性質・反応、硫化物の沈殿、気体の捕集法、気体の発生と中和反応の量的関係について、例年と同様に小問形式で問われた。
  • 問1は、窒素酸化物の製法・性質・反応について問うた、文章選択問題であった。
  • 問2は、金属イオン(亜鉛、鉛、アルミニウム、銅、銀)の沈殿について、水溶液(水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水)との組合せを問うた問題であった。両性元素の鉛が選択肢に含まれている点は目新しい。
  • 問3aは、ハロゲンの性質・反応について問うた、典型的な問題であった。酸化力の強弱で判断する必要があり、単なる知識の暗記では解答できないように工夫されている。bは、金属の性質・反応について問うた問題であった。水銀や、両性元素のスズが選択肢に含まれているため、幅広い知識が必要である。また、銀と銅の電気伝導性の大小を問う選択肢が含まれており、受験生は判断に迷ったであろう。
  • 問4は、マグネシウムと亜鉛からなる合金について、マグネシウムの含有率を求めさせる計算問題であった。
  • 問5は、気体の発生と捕集法に関する典型的な問題であった。アンモニアが上方置換であることがわかれば正答できる。
  • 問6は、塩化水素の発生と中和反応について、それぞれの量的関係を問うた、グラフ選択問題であった。縦軸と横軸が見慣れない組合せで設定されており、題意把握やグラフ読解に応用力を要するため、戸惑った受験生も多かったであろう。

    第4問「有機化合物」

  • 油脂・セッケン、エステルの構造決定、異性体、有機化合物の反応、アニリンの合成実験、不飽和炭化水素の構造決定について、例年と同様に小問形式で問われた。
  • 問1は、油脂およびセッケンの性質について問うた、文章選択問題であった。正答となる記述の内容が基本的であるため、知識があいまいな受験生にとっても解答しやすい。
  • 問2は、エステル結合を二つもつ化合物の加水分解を題材にした、構造決定問題であった。シス・トランス異性体や不斉炭素原子についての理解はもちろんのこと、構造の全体像を読み取る力が問われた。
  • 問3は、6対の構造式の組合せのうちから、互いに異性体の関係にあるものを選択させる問題であった。
  • 問4は、有機化合物の合成方法に関する典型的な問題であった。
  • 問5は、アニリンの合成実験を題材にした問題であった。実験の内容は、長めの問題文によって具体的に説明されていた。そのため、実験操作の目的理解にあたっては、問題文を注意深くよく読む必要があった。文章読解力によって差がつきやすく、また、実験経験の有無によっても有利不利が分かれる問題であった。
  • 問6は、不飽和炭化水素の構造決定問題であった。有機化合物の燃焼と臭素の付加反応について、それぞれの量的関係から構造を推定する必要があり、高度な計算力と思考力を要する。
    5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値) ※2005年度は化学IBの平均点です。

    年度 2009 2008 2007 2006 2005
    平均点
    69.54
    64.21
    61.35
    64.13
    66.06
    6.2011年度センター試験攻略のポイント

  • 例年、化学Iの全範囲から幅広く出題され、分野ごとに構成される各大問の配点は等しい。したがって、苦手分野をつくらないようにすることが重要である。教科書に記載されている基本的な項目は、確実に理解しておきたい。
  • 有機化合物の構造決定問題は思考力を要するが、演習によって習熟しやすい。様々なタイプの問題に取り組み、練習を積んでおきたい。
  • 実験や観察を題材とする問題は頻出であり、正しい器具の使い方なども含めて総合的な学力を要する。実験やレポート作成などを通じて、思考力・考察力を身につけたい。また、実際に実験に取り組むことができる機会は限られているため、模擬試験などで同傾向の問題にあたり、応用力を養っておきたい。
  • 日常生活の視点から化学物質と人間生活を関連づけた問題は例年出題されているが、苦手とする受験生も多い。普段から、環境問題などについて書籍・新聞などで知識を得るなど、広く科学的素養を育てることも有効であろう。