日本史A
1.総評
【2010年度センター試験の特徴】
・ペリー来航以前からの出題がなくなり、また昨年よりも社会経済史と文化史の割合が増加した。
・東京駅改修工事などのタイムリーなテーマや、例年同様「民衆」に視点をおいたテーマから出題された。
・難易は昨年よりもやや易化した。
現行課程のねらいに沿って近現代史が重視され、前近代からの出題が完全に姿を消した。また、昨年と同様にさまざまな素材が使用された。年代整序問題は今年もすべて6択で7問出題されたが、昨年よりも取り組みやすいものとなった。受験生が苦手とする社会経済史や文化史からの出題が増え、政治史が減少したが、全体的には基本的な問題が多かったことから、昨年よりもやや易化したと思われる。
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2.全体概況
【大問数・解答数】 |
大問数6と解答数34は昨年から変更なし。日本史Bとの共通問題が、今年は第3問と第5問に変更となった。 |
【出題形式】 |
2文の正誤判別問題が5問から2問に減少。年代整序問題は今年もすべて6択で出題された。東京駅の絵図や東京市隣組回報の史料、日本経済に関する表、在朝日本人と在日朝鮮人のグラフなど、さまざまな素材が用いられた。 |
【出題分野】 |
前近代の問題が姿を消し、近現代のみの出題となった。戦後史からは4問出題された。分野のバランスは、社会経済史と文化史が増加し、政治史からの出題が減少した。 |
【問題量】 |
昨年並。 |
【難易】 |
昨年よりやや易化。 |
3.大問構成
大問 |
出題分野・大問名 |
配点 |
難易 |
備考(使用素材・テーマなど) |
第1問 |
- 東京駅と周辺の歴史についての主題学習
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- 8点
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- やや難
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- 生徒と先生の会話文(設計図をもとに描かれた東京駅の絵や写真)
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第2問 |
- 幕末から明治前期にかけての政治と社会
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- 18点
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- 標準
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- A 開国後の政治と社会
B 幕末から明治前期の社会
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第3問 |
- 明治前期の産業・経済
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- 12点
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- 標準
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- 殖産興業
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第4問 |
- 第一次世界大戦後から太平洋戦争後にかけての政治と社会
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- 15点
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- 標準
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- A 第一次世界大戦後から1930年代までの政治と社会
B 日中戦争から太平洋戦争後にかけての政治と社会
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第5問 |
- 渋沢栄一・敬三からみる近現代の社会・経済
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- 23点
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- 標準
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- A 明治前期の政治
B 大正以降の恐慌と戦後の経済
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第6問 |
- 近現代における人の往来
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- 24点
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- 標準
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- A 近代における日本人の海外移民
B 日本に渡ってきた朝鮮の人々 C 日本人の海外への移住
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4.大問別分析
第1問「東京駅と周辺の歴史についての主題学習」
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昨年と同様にテーマ史の出題。問題本文は「東京駅と周辺の歴史について」の生徒と先生の会話という設定で、東京駅の絵や写真などを通じて政治・外交・文化が問われた。例年第1問で出題されるペリー来航以前からの出題がなくなった。きちんと理解できていないと迷う設問もみられ、大問全体ではやや難しかった。
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問1は、辰野金吾と原敬の語句組合せ問題であった。辰野は「東京駅や日本銀行本店を設計した建築家」から判断できる。原は「平民宰相」や「東京駅で刺殺されたこと」を手がかりに正答を導ける。
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問2は、アジアにおける日本の外交についての年代整序問題であった。「ポーツマス条約」から日露戦争、「二十一か条の要求」から第一次世界大戦は判断しやすいため、残った北清事変の時期判断がポイントであった。
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問3は、大正から昭和にかけての文化の大衆化について問われた。文化史の時期判断は受験生が苦手としがちだが、『横浜毎日新聞』の創刊が明治期という誤りは判断しやすい。
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第2問「幕末から明治前期にかけての政治と社会」
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Aは開国後の政治と社会、Bは幕末から明治前期の社会を中心とした出題であった。受験生が判断に迷いそうな問題も散見されたが、全体的には基本的事項を問うものも多く、標準的な難易であった。
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問2では、戊辰戦争の経緯について問われた。奥羽越列藩同盟が反政府同盟であることがわからなくても、他の選択肢が基本的な内容であったため、消去法で正答にたどりつけただろう。
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問4では、幕末期の開国と攘夷をめぐる動向について出題された。桜田門外の変や八月十八日の政変などについて、用語だけではなくその内容をきちんと理解できているかの正誤判断が必要であった。
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問5は、大規模な騒動や一揆について問う年代整序問題であった。世直し一揆、地租改正一揆、秩父事件と時期が明確なため、政治史の流れと結びつけながら判断できただろう。
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問6は、幕末から明治初期にかけての宗教について出題された。五榜の掲示におけるキリスト教の禁止は頻出事項であり、問題演習をしていれば容易に判断できる。また、「神仏習合」と「廃仏毀釈」の意味の違いから誤りも判断しやすかっただろう。
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第3問「明治前期の産業・経済」
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日本史Bとの共通問題。日本史Aとしても、標準的な出題。詳細は日本史B第5問参照。
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第4問「第一次世界大戦から太平洋戦争後にかけての政治と社会」
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Aは第一次世界大戦後から1930年代までの政治と社会、Bは日中戦争から太平洋戦争後にかけての政治と社会について出題された。やや難しい内容も問われたが、基本的問題もあり総合的に見れば標準的な難易であった。
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問2では、政治史と外交史の年代整序問題であった。IIIが第二次護憲運動のことと判別したうえで、外交史のI・IIとの時期の前後を判断する必要があり、難問であった。
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問4では、「東京市隣組回報」を用いて、知識や時代背景の理解が問われた。隣組の役割についての基本的な知識とともに、史料の読み取りが求められた。
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問5では、戦時中・戦後における文化や教育が問われた。日本軍の戦果がニュース映画で上映されたことや、終戦直後の墨塗り教科書が連想できれば消去法で正答を導き出せるが、迷った受験生もいるのではないだろうか。
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第5問「渋沢栄一・敬三からみる近現代の社会・経済」
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日本史Bとの共通問題。日本史Aとしても、標準的な出題。詳細は日本史B第6問参照。
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第6問「近現代における人の往来」
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Aは近代における日本人の海外移民、Bは日本に渡ってきた朝鮮の人々、Cは日本人の海外への移住をテーマに、社会経済史や外交史を中心として出題された。全体的には標準的な難易であった。
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問1は、近代日本の移民についての年代整序問題であった。設問文から落ち着いて日露戦争、日米修好通商条約、満州進出などのキーワードを見つけることができれば正答を導き出せる。
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問3は、日朝修好条規に関する2文の正誤判別問題。基本的事項を問うており、日朝修好条規が不平等条約であることをおさえていれば易しい。
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問5は、文章と人物の組合せ問題であった。Xは甲申事変のことと判断できるかがポイントとなったが、金玉均は昨年も出題された基本事項である。
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問6は、在朝日本人数と在日韓国人数の推移を示したグラフの読み取り問題であった。グラフの読み取りは複雑なものではないため、韓国併合・関東大震災・盧溝橋事件・太平洋戦争の時期を特定できたかどうかがポイントとなった。
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問7は、太平洋戦争期の民衆の生活などについて出題された。学徒出陣や女子挺身隊などについて押さえられていれば判断できたであろう。
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5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)
年度 |
2009 |
2008 |
2007 |
2006 |
2005 |
- 平均点
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- 46.51
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- 55.95
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- 51.53
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- 57.55
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- 54.77
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