問題講評
データネット2010
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世界史B

1.総評

【2010年度センター試験の特徴】 

・地理的な認識を求める問題が例年以上に出題された。
・昨年同様に地域の網羅性は高く、東南アジア、朝鮮、アフリカ、東欧など周辺地域からの出題が見られた。
・時期判断を求める問題が例年同様出題され、各大問で差がつく問題となったと思われる。


 大問構成、解答数、設問の出題形式に大きな変化はなかった。時代は、近世・近代の割合が増加し、昨年多かった古代・中世は減少して例年並となった。地域は、昨年周辺地域からの出題が特に目立ったが、今年も東南アジア、朝鮮、アフリカなどの周辺地域を含めて出題され、地域網羅性は高かった。地図を使って地理的な認識を問う問題が複数見られたほか、時期判断を含む問題が今年も多く、差がつくポイントになったと思われる。難易は昨年並であった。
2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数4と解答数36個は昨年から変更なし。
【出題形式】 地図を使った問題が4問出題され、写真を使った問題は出題されなかった。昨年出題がなかった語句選択の問題が2問見られ、例年出題が続いていた6択の問題は、今年は出題されなかった。また年代整序問題も昨年に引き続き出題されなかった。
【出題分野】 時代は、近世・近代の割合がやや増加して4割を超えた一方、昨年多かった古代・中世が減少した。地域は、西欧・東アジアを中心としながらも、昨年と同様に網羅性が高かった。分野のバランスは、昨年よりも文化史の出題がやや減少した。
【問題量】 昨年並。
【難易】 昨年並。
3.大問構成

大問 出題分野・大問名 配点 難易 備考(使用素材・テーマなど)
第1問
世界史上の都市
25点
標準
A 中国歴代王朝の都
B 朝鮮(李朝)における都市
C マンチェスター
第2問
世界史上の貨幣
25点
やや易
A 中国における貨幣
B 13・14世紀のユーラシアと銀
C ラテンアメリカと銀
第3問
海運の歴史
25点
やや難
A 東南アジアの海上交通
B インド洋と地中海をつなぐ主な交易路
C オランダにおける海運の歴史
第4問
民衆の異議申し立て
25点
標準
A 中世後半から近世のヨーロッパ
B 戦後の東欧
C 中国の農民反乱
4.大問別分析

第1問「世界史上の都市」

  • Aでは中国歴代王朝の都、Bでは朝鮮(李朝)における都市、Cではマンチェスターを取り上げ、地理的な認識を含めて出題された。問1・3・9では大問テーマを反映して都市そのものの歴史が出題された。
  • 問1・3は、いずれも地図中の都市を判断したうえで、文章の正誤判断を求めるものであった。ともに地理的な認識が解答するうえで前提となるため、知識を定着させられていたかどうかで差がついただろう。特に問3の南京と抗州に関する問題は、紛らわしい事項であったため迷った受験生が多かったものと思われる。
  • 問6は、18世紀の商業や手工業について異なる地域の二文の正誤判別問題。事項の時期と内容の両方が問われたため難しかったと思われる。特に、フランス革命の早い時期にギルドが廃止されたという事項はやや詳細な知識であり、受験生が自信をもって判別するのは難しいと思われる。
  • 問9は、18・19世紀のマンチェスターについて問われた。受験生が苦手とする社会経済史で、かつ時期判断も含まれていたため難しかったと思われる。マンチェスターがリヴァプールと鉄道で結ばれたのは、スティーブンソンの蒸気機関車開発のすぐ後であることを想起し、時期判断の判別ができたかどうかがポイントであった。

    第2問「世界史上の貨幣」

  • Aでは中国における貨幣、Bでは13・14世紀のユーラシアと銀、Cではラテンアメリカと銀を中心に出題された。貨幣をテーマに、社会経済史を中心とした地域網羅性の高い出題であった。
  • 問3は、16世紀の出来事についての地域網羅性の高い問題であった。正答はツォンカパの改革の時期判断を含んでいるためやや難しく、消去法での解答となるが、誤答選択肢も判断しにくかったため苦戦した受験生が多かっただろう。
  • 問4では、元が発行した紙幣の名称が語句選択の形式で問われた。元代の交鈔は関連付けておさえやすいところであり、ほとんどの受験生は迷わず正答が選べただろう。
  • 問6では、13・14世紀の南アジアについて問われた。ソンガイ王国、ブワイフ朝が南アジアではないと判断できても、奴隷王朝の成立時期と誤答選択肢のヴィジャヤナガル王国の滅亡時期で迷う受験生がいただろう。
  • 問8では、金や銀に関わる出来事について、テーマを反映して幅広い時代や地域の事項が問われた。正答であるアメリカ合衆国西部のゴールドラッシュは基本事項であるため、積極的に選べたはずである。

    第3問「海運の歴史」

  • Aでは東南アジアの海上交通、Bではインド洋と地中海をつなぐ主な交易路、Cではオランダにおける海運の歴史について広く世界史を概観し、東南アジアやアフリカ、東欧のなどの周辺地域を含めて出題された。
  • 問1・2とも受験生の苦手な東南アジアからの出題であった。問1は、パガン朝における上座部仏教の伝播という正答は比較的選びやすかったため、誤答選択肢に惑わされず落ち着いて解答できたかどうかがポイントであった。
  • 問2は、15〜17世紀の東南アジアについて出題され、時期の設定もされていたことから判断のポイントがわからず戸惑った受験生も多くいたと思われる。教科書等で分散して扱われる東南アジア史をしっかり整理できていたかどうかで差がつく問題となった。
  • 問4は、ペルシア湾からティグリス・ユーフラテス川流域で起こった出来事について、古代から近世にかけて時代縦断的に問われた。正答のバグダードの建設地域は積極的に選びにくい。西アジア・南アジアは受験生が苦手としがちな地域であるため、迷った受験生も多かったものと思われる。
  • 問5は、アフリカにおける19世紀の状況や出来事についての問題であった。正答のエチオピア併合は19世紀ではなく20世紀である、という時期判断を含んでおり、やや難しい。エチオピアとリベリアのみがアフリカで独立を維持していたことから積極的に判断できないと、スーダンやカメルーンなどの知識も問われていたために、受験生は迷ったものと思われる。
  • 問7では、バルト海沿岸の国や地域の歴史について問われた。正答は東欧エストニアの事項であり、積極的には選びにくい。多くの受験生は、消去法による解答を強いられただろう。
  • 問8では、航海や貿易について近現代のヨーロッパを中心に問われた。グロティウスや航海法の関連事項は基本事項のため正誤判断は可能でも、GATTやフラン=ブロックなどで迷った受験生もいただろう。

    第4問「民衆の異議申し立て」

  • Aでは中世後半から近世のヨーロッパ、Bでは戦後の東欧、Cでは中国の農民反乱を取り上げてテーマに沿って出題された。
  • 問2では、15世紀の教会をめぐる動きについてヨーロッパ中世の事項が問われた。時期判断が必要であり、誤答選択肢もやや近い年代からの出題であったため、流れをしっかりと理解しているかどうかがポイントであった。それぞれの選択肢の正誤判断を確実に行えるかどうかで差がつく問題であったと思われる。
  • 問3は、ドイツ農民反乱についての二文の正誤判別問題。指導者は誰であったかという判別はできても、シュマルカルデン同盟との関わりはやや細かい事項であり、自信を持って正誤を判断するのは難しかっただろう。
  • 問5では、ポーランドの歴史について長い時代スパンの中で問われた。受験生にとってなじみの薄い地域であるが、第二次世界大戦のきっかけとなったポーランド侵攻など中学での履修範囲も含んでおり、誤答は明らかなものが多かったため、基本事項を整理できていれば正答を選ぶことは可能である。
  • 問9は、中華人民共和国についての出題であり、日中平和友好条約と日中の国交正常化の時期判断が受験生にとってはやや難しかったと思われる。
    5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

    年度 2009 2008 2007 2006 2005
    平均点
    62.70
    58.98
    67.75
    66.25
    63.16
    6.2011年度センター試験攻略のポイント

  • 世界史Bでは、教科書にある内容をそれぞれ丁寧におさえておくことが欠かせない。一つの地域や時代の枠内で重要事項をきちんと整理し、それぞれの時代の特徴を把握したうえで、同じ時期のヨコのつながりや時代の枠組みをこえたタテのつながりを意識しながら学習を進めるよう促したい。また、先史時代から戦後史まで含めてまんべんなく学習しておくことが定石である。
  • ヒトやモノの移動、社会史的なテーマ、生活に身近なモノから見た歴史や接触と交流など、複数の地域が絡む事項は相互の関係や時代背景、その後の影響などを丁寧に整理しておきたい。また、東南アジア・朝鮮・中央アジア・ラテンアメリカ・アフリカなど教科書で分散して扱われる地域については、中国や西欧、アメリカなどの動きに並行させて民族・王朝・国家などの時期を把握しておくよう注意したい。なお、これらの地域についても戦後史まで含めて通史として振り返っておく機会を必ず設けることが必要である。
  • 一つの事項が該当する時期・地域を確認するとともに、その背景・原因となった事象や、その後の社会に与えた影響など、有機的な関連性を日頃から意識的に把握させておきたい。個別の事項の詳細に踏み込みすぎず、歴史の流れを大局的にとらえさせる機会をバランスよく設けるよう心がけたい。
  • 同時期にほかの地域で起こった出来事が結びつくように、世紀ごとに世界を見渡すことに慣れておきたい。まずは、単元ごとにタテの流れをしっかり把握したうえで、それぞれの出来事を各世紀の前半・後半に分類できるように備えておくとよいだろう。学習を進めるたびに、図説などの「●世紀の世界」として示されたページと、地域ごとに配列された年表を活用しながら、既習事項との関連をおさえ、より理解を深める機会を設けるようにしたい。
  • 王朝や都市は、関連事項とその位置を地図で確認しながらセットでおさえるよう習慣づけておきたい。同時期のヨコのつながり、王朝・国家の支配領域についても、同時期に存立していた王朝や隣接する王朝などにも注意しながら、図説などの地図を活用して視覚的におさえておくことが欠かせない。なお、受験生が地図を見るときの目安となるように、教科書本文で触れられる主要な河川や半島などの位置も合わせて確認し、補っておくことが望ましいだろう。