・統計資料の読み取り問題が2問に。また、文章資料の読み取り問題も5問出題され、昨年同様、読解力が求められた。
・基本的な知識を求める問題や、丁寧に読解・考察すれば解答が可能な素直な問題が中心。
・難易は昨年よりやや難化。
大問構成や出題分野、解答数などは昨年と同様。基本事項を中心に思想の理解や思考力を求めるものが多く、日ごろの学習成果があらわれる出題であった。また、キーワードで単純に解けるのではなく、内容からの判断が求められた出題も散見された。現代の諸課題は、例年出題されていた時事的な知識問題ではなく、倫理的な視点からの出題が目立った。また、統計資料の読み取り問題が2問、文章資料の読み取り問題が5問出題されており、リード文の趣旨を判別する問題などとあわせて、昨年同様、読解力が求められた。難易は昨年と比べ、やや難化した。 |
【大問数・解答数】 | 大問数5、解答数37個は昨年から変更なし。 |
【出題形式】 | 文章資料の読み取り問題が5問、統計資料の読み取り問題が2問出題され、昨年同様読解力が求められた。また、組合せ問題が増加し(1→3)、組合せの8択が1問出題された。 |
【出題分野】 | 例年通り、第1問は青年期が3問、第5問は現代の諸課題について出題された。 |
【問題量】 | 昨年並。 |
【難易】 | 昨年よりやや難化。 |
大問 | 出題分野・大問名 | 配点 | 難易 | 備考(使用素材・テーマなど) |
第1問 |
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第2問 |
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第3問 |
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第4問 |
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第5問 |
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第1問「他者理解とステレオタイプ」(青年期)
「他者との関わりとステレオタイプ」を切り口としたリード文から、青年期に関して3問出題された。例年と同様、図の読み取りや具体事例の判断について出題された。 | |
問1は、ステレオタイプ的な見方による発言の具体例の正誤を判定させる組合せ問題。すべての選択肢が正しいというところで戸惑った受験生もいたか。ウの「様々な人がいる」「多かれ少なかれ」という部分の解釈が紛らわしかったかもしれない。 | |
問2は、防衛機制の種類についての基本的な問題。用語と意味を正確に理解していれば解答は容易である。 | |
問3の「感情反応ごとの仮想的有能感得点の平均値の比較」の図の読み取り問題は、設問文を理解するのに時間がかかったかもしれないが、選択肢自体は紛らわしくなく、判別は易しい。 |
第2問「囚われの心について」(源流思想)
「囚われ」をテーマとしたリード文から、荘子、キリスト教、ブッダ、ストア派、プラトン、諸子百家、ムハンマドについて、基本事項を中心に出題された。全体的に取り組みやすい大問であったが、キーワードで単純に解ける問題が少なく、内容からの判断が求められた。 | |
問2は、ブッダの四諦についての説明。それぞれの説明の内容に誤りがあるため、文章をしっかり読んで誤りを探す必要があり、用語の正確な理解が求められた。 | |
問3は、ストア派の「自然に従って生きよ」の意味するものを選ぶ問題。すべての選択肢に「理性」と「自然」が入っており、キーワードだけではない、内容の判断が求められた。 | |
問4は、プラトンのイデアに関する基本的な問題。判断ポイントが明確であるため、正答は絞りやすかっただろう。 | |
問5は、諸子百家の思想家を選ぶ組合せ問題。明確なキーワードがないが、内容は基本的なものとなっている。イが孟子、エが法家(韓非子)、ウが孔子と順に特定していけばよい。 | |
問6は、ムハンマドの思想が旧来の多神教と対立した要因を考える問題。基本的な理解があれば迷わずに正答が選べる。 | |
問7は、パウロの「新しい生」について考える問題。誤答の選択肢にも異邦人、回心などのキーワードが入っていたため、選択肢を丁寧に吟味する必要があった。 |
第3問「出会いと思想」(日本思想)
「出会い」をテーマとしたリード文から、空海、石田梅岩、親鸞の信仰についての資料読み取り、法然、栄西、藤原惺窩、福沢諭吉の資料読み取り、近代の思想家などに関して出題された。全体的にキーワードではなく、内容の判断が求められた。 | |
問2は、『御伝鈔』とリード文とを併せて、親鸞の信仰の特徴について判断する問題。正答の選択肢にある親鸞の非僧非俗を知っていれば選びやすいが、決め手にはならない。リード文と資料を併せた読み取りが求められた。リード文に示された、「凡夫としての自覚をいっそう強め」などと結びつけながら丁寧に選択肢を読んでいくことが求められた。 | |
問3は、法然が旧仏教から迫害を受けた理由を選ぶ問題。誤答の選択肢に末法思想や阿弥陀仏の本願などの内容があり、迷ったかもしれないが、専修念仏とそれが迫害を受けたことを知っていれば積極的に正答を選べる。 | |
問4は、栄西の教えを選ぶ問題。正答に坐禅があり、そこから判断できる。 | |
問5は、藤原惺窩について選ぶ問題。誤答選択肢の林羅山と区別できるかどうかがポイント。 | |
問6は、福沢諭吉の『文明論之概略』からの資料読み取り問題。資料の「文明の後るる者は先だつ者に制せらるるの理」「自国の独立如何の一事にあらざるを得ず」から正答を判断できる。 | |
問7は、新渡戸稲造、鈴木大拙、武者小路実篤、折口信夫が経験した出会いについての問題。鈴木大拙、武者小路実篤については判断が難しい。正答の新渡戸稲造について、武士道がキリスト教を受け入れる素地になると説いていることに気づけたかどうかがポイントであった。 |
第4問「科学的思考法について」(西洋思想)
「科学を生み出した思考」をテーマとしたリード文から、ベーコン、デカルト、スコラ哲学、ヒューム、ダーウィン、現代の諸課題、文章資料の読み取りなどに関して出題された。全体的に現代の課題が意識された出題であった。 | |
問1は、ベーコン、デカルトに関する基本問題。 | |
問2は、選択肢の一部に難解な表現があり、一見難しそうであるが、正誤のポイントは明らかなので判断しやすい。 | |
問3は、ベーコンのイドラの内容理解を問う問題。4つのイドラの内容を正確に理解できていれば判断できる。 | |
問4は、ヒュームの懐疑論についての問題。ヒュームが因果律の法則を否定したことについて理解できていないと解けず、受験生には難しかったと思われる。 | |
問5は、ダーウィンの進化論についての問題。突然変異と自然淘汰より、積極的に正答が選べる。 | |
問6は、科学の発展に伴って20世紀以降に新たに生じた倫理的問題を選ぶ問題。論理的な思考が求められたが、判断ポイントを見出しにくく、迷った受験生が多かったかもしれない。 | |
問7は、『疑似科学と科学の哲学』の資料読み取り問題。資料文の「疑似科学」の定義より、選択肢の発言から定義に該当する発言を選べばよい。 |
第5問「安全な暮らしと自由」(現代の諸課題)
「安全と自由」をテーマにした会話文を含むリード文から、アダム・スミス、ロック、日本の社会保障制度、統計資料の読み取り、文章資料の読み取り(2問)が出題された。現代の課題を意識した思想問題が出題され、例年出題されていた時事的な知識問題ではなく、倫理的な視点からの出題が目立った。昨年出題のなかった情報分野からの出題が見られた。資料の読み取り問題が多いため、試験時間の後半で解答時間が不足ぎみの受験生もいたのではないか。 | |
問1は、アダム・スミスの基本問題。 | |
問2は、自然状態に言及している思想家たちの著作の説明についての出題。選択肢に思想家がないので、著作が誰のものか判断し、その内容を判別する必要がある。 | |
問3は、日本の社会保障見直しの議論の背景についての出題。正答の選択肢が明らかなので易しい。 | |
問4は、「防災・防犯のための個人情報の共有・活用」についての統計資料の読み取り問題。複雑な要素はなく、落ち着いて図を読み取っていけば易しい。 | |
問5は、ジョージ・オーウェルの『1984年』からの資料読み取り問題。資料より通信技術による思想統制が読み取れるかどうかがポイント。 | |
問6は、ミルの『自由論』の資料読み取り問題。他者危害の原則についての具体例を選ぶ。資料を丁寧に読めば、判断は容易である。 | |
問7は、本文の内容に合致する記述を選ぶ問題。ケアレスミスをしないように、リード文をしっかり読む必要があった。 |
年度 | 2009 | 2008 | 2007 | 2006 | 2005 |
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例年、思想家や思想の内容理解を問う出題が中心なので、重要語句は、用語だけでなく、その意味内容までおさえる学習を徹底しておきたい。その上で、キーワードを使わずに自分のことばで思想が説明できるようにしておくことも効果的である。 | |
思想家どうしの相違点や共通点、思想史的な流れもおさえておくことが大切である。また、思想家の生きた時代背景や本人のエピソードなどを知っていると解答しやすい設問が出題される場合もあるので、思想とあわせて把握しておくようにしたい。 | |
資料読解問題は例年出題される。読解力・論理的思考力を問う出題は慣れることが必要なので、類題演習を積んでおきたい。また、リード文の読解の正誤判断も求められる。国語的な側面も含め、選択肢の正誤判断をすばやくできるように演習を積んでおきたい。 | |
現代の思想家は、フーコーやハーバーマスなど構造主義・ポストモダン・フランクフルト学派などの思潮、さらにロールズやアマーティア・センといった近年注目度の高い人物を一通りおさえておきたい。 | |
現代の諸課題については、具体的な現代の諸問題に結びつけて理解することが大切である。さらに、「倫理」の枠にとらわれずに学習することも重要である。教科書・資料集レベルのキーワードを一通りおさえるとともに「政治・経済」などの用語集なども併用して、時事的な問題に対応できるようにしておきたい。また、日頃から新聞やニュースに目を通しておき、主要な課題については、課題のポイントや制度面の動きを把握しておきたい。 |