個別試験教科別対策ポイント

 

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 センター試験が終了しいよいよ個別試験です。ここからは,それぞれの志望校の個別試験に向けた学習に特化して,ラストスパートをかける必要があります。ここでは,2008年度入試の個別試験の出題状況を振り返り,2009年度入試の方向性をまとめました。
〜分析:進研模試編集部〜

国語

1. ここ数年変わらず続いているのは「基礎知識の有無」「問題文全体を俯瞰した上で,個々の設問箇所を正しく読み解く力」「読み取った内容を,解答欄の形式に合わせて正確に表現する力」を試されることである。中でも,問題文全体を踏まえた読解という姿勢がポイントになる。特に,国公立大の記述設問の場合,傍線部周辺のみの内容を記述しただけでは満足な解答にならないものが多い。また,設問文に「全体の趣旨を踏まえて」「筆者の考えを踏まえて」などの条件が付いたものが多数あり,これらは,「問題文全体の内容を踏まえる」ことを要求しているといえよう。すなわち,読解上最も大事なのは,評論文であれば筆者が文章全体を通して最も言いたいこと・論の中心点を,古典の物語文であれば最終的な心情や人物関係などを,いかに的確に把握できるかという点なのである。
2. 現代文であれ古典であれ,国公立大の出題はほとんどが記述設問である。読み取った内容をいかに正確に過不足なく表現できるかは,記述力のみならず,語彙力にもかかっている。日々の演習の中で,表現力の強化に努めつつ,語彙力を高める工夫もしていきたい。一方で,私立大は選択肢式の客観テストが主であり,問題文および設問の選択肢を,短時間で正確に読解しなければならず,高い情報処理能力が必要である。
3. 念頭に置いておきたいのは,試験において出題する文章が選択され,傍線部が設けられる過程には出題者の意図が反映されるということである。したがって,解答作成の際,なぜこの部分に傍線が施されたのか,どのような方向性の解答を想定した設問なのか,をしっかり把握することが重要である。私立大では,上記の二つに加えて,選択肢の作成という過程でもう一度筆者の意図するところのみならず,出題者の意図をも理解する必要があるのである。

数学

1. 傾向として,どこから手をつければよいか分からないような問題は少なく,難関大といわれる大学においても,導入部分は教科書を理解できていれば解ける問題が出題されているなど,全般的に標準的な問題が多く見られる。よって,難しい問題にどれだけ手がついたかというよりも,標準問題をどれだけ確実に解答するかで差がつく。そのため,問題に着手する「基礎・基本をきちんと理解する力」,ミスなく正しい答えを出せる「計算力」,そして減点されないための「自分の考えを論理的に表現する力」といった学力が今後ますます必要となってくる。
2. 前述に加えて,今後の入試に変わらず必要な学力として「論証力」,「図形的考察力」が挙げられる。易化傾向にあるといっても,受験生の苦手とする整数問題や証明問題のような論証力を見る問題は多く見られる。題意をどれだけ理解したか,解答の筋道を論理的に説明できるかが合否に影響する。図形問題も多く取り扱われており,空間図形の問題も目立つ。教科書の扱いは軽く,図形的なイメージをつける機会も多くはないので,図示を意図的に行わせ,図をかいて考える習慣をつけさせておきたい。

英語

1. 2008年度入試も,個別試験の読解における文章の語彙レベルは標準的なものが多く,ここ数年易化傾向にある。しかし,文章そのものの分量は年々増加してきており,2008年度入試も長文化傾向が続いている。2008年度のセンター試験でも,素材文の分量が増え,多様なジャンルの文章を読解することが求められたが,個別試験においてもこの傾向が今後も続く可能性は高い。また,素材文の分量の増加に加え,多量の文章から必要な情報を素早く読み取る力が重視される傾向も定着してきている。ここ数年,従来の文法や構文が複雑に絡んだものよりも,前後の文脈を踏まえて訳す必要があったり文章の要点を理解するうえで「ターゲット」となる文を訳させたりするものがより多く出題されている。文脈に沿って文章の意味を理解することが重視されていることの表れと言える。
2. 個別試験における語彙・文法の出題比率はほぼ横ばいであるが,例年語彙・文法問題を出題している大学以外でも,長文中で語彙の意味を類推したり,文法・語法の正確な運用力を試したりする設問(動詞の変化形や前置詞の用法等)が散見された。また,和文英訳(英作文)問題においても,基本動詞や日常生活で用いられる基本語彙を運用して表現させる設問が以前より増えている。今後も単独で語彙・文法知識を問う出題が増加する可能性は低いと推測するが,読解や英作文の出題を通じて基本的な語彙・文法の運用力を測るような設問は引き続き出題されると考える。
3. 実践的なコミュニケーション力が重視される中で,今後注目されるのは英語の表現力(書く力)である。国公立大の個別試験における表現(英作文)を問う割合はほぼ横ばいとなってきているが,出題形式は様々であり,複数の技能を融合させた出題が散見される。例えば一橋大(前)では,リスニングで聴いた内容を英語でまとめる問題が出題され,北海道大(前)や岡山大(前)では,文章を読み,ある立場に立って自分の意見を英語で書く問題が出題された。また,東京大(後)の総合科目Tでは,45〜60語の英語で文章の内容を要約したうえで,文章で述べられている問題に対する自分の意見を80〜100語で書くという問題が出題されてきている。これらは,情報を受信し,思考し,そして自分の言葉で発信するといった,いわば実践的な英語力を測ろうとする出題である。このような動きが一気に広がるかはわからない。しかし,今後は,大学入試においても,英語を実際のコミュニケーション手段として運用できるかどうかを重視していく方向に徐々になっていくであろう。

世界史

1. 「接触と交流」「世界の一体化」「グローバル化」をテーマとする出題は今後も重視されると予想される。そのなかで人・モノの移動,地域世界の結合・変容などを扱った出題は,今後も頻出である。
2. 地域横断的・時代縦断的な,地域・時期ともに広く展望させる出題に対応できる力をつけておきたい。過去問演習なども活用して,地域世界をこえたヨコのつながりや,長いスパンで通史的に一貫したテーマを整理しなおしておくとよい。
3. 現代史について,今日の時事問題としてクローズアップされている事象を歴史的にとらえさせる観点は,入試では必須である。戦後だけに限定せず,近世・近代にまで遡って学習しておきたい。

日本史

1. 基本事項をきちんと理解しておくことに加え,国公立大などでは歴史の構造的な理解や歴史像・時代像をとらえる力が従来と同様に強く求められる。また,図版や史・資料を扱った問題にも注意が必要である。
2. 大論述形式の問題では,部門史的な観点からの理解や歴史の推移・転換点の把握,また,分野横断的な出題による歴史像の把握や意義の説明が求められる傾向は続くであろう。また,近年の国公立大の入試では,基本事項をベースに,歴史的な背景や意味合いを考察し,表現する力が求められている。対策としては,基本事項の定着を前提としたうえで,分野間・時代間の関連が強いところを中心に,鳥瞰的な視点から歴史像・時代像を把握することで,各歴史事象の共通点や相違点,因果関係などを正確に理解しておくことが必要になる。加えて,演習問題などを通して,様々な視点から歴史を思考・考察する力と記述力を養っておきたい。
3. 2009年度入試以降も,史・資料の読解力や読み取った情報の運用力が重視される傾向は続くものと思われる。初見の史・資料について,どの時代の何についてのものかを判断したり,読み取った情報を抽象化して表現したりするなどの訓練を積ませる工夫が必要である。
4. 分野横断的な視点から,人々の生活に着目して社会史・経済史的な視点から歴史をとらえるものや,政治と文化の関連性についての理解を問うものなどは頻出である。時代ごとに各分野のつながりを理解させることで,背景理解を深めさせたい。
5. 通史的に長いスパンで歴史をとらえる問題は,2008年度入試ではあまり見られなかったものの,近年の入試傾向では重視されている観点の一つである。戦後史まで含めた幅広い歴史像の把握・理解を身に付けさせたい。また,戦後史からの出題では,時事的な問題意識を反映したものや,戦後の日本を振り返る視点が反映される可能性もあるので,他科目と絡めた学習を行っておくことも効果的であろう。
6. 2008年度入試では目立った出題の見られなかった東アジア的観点からの出題は,引き続き注意しておきたい。国際的な動きと日本の歴史がどう関わっていたのかを,近世以前は東アジアの動向を中心に,近代以降は「世界から見た日本史」「日本から見た世界」という観点に注意していく必要があるだろう。
7. 「身近な地域社会の歴史」から歴史を展望していく観点の出題にも注意しておきたい。特に従来の入試でも重要視された蝦夷・琉球史といった地方の視点を含んだ出題については注意が必要である。教科書を中心とした学習に加え,日頃から新聞やニュースなどで取り上げられる地域の歴史調査や発掘調査に関心を払っておきたい。

地理

1. 「自然環境」「産業」「地誌」を中心とした入試傾向に変化は見られなかったことから,地理の基礎ともいえるこの3分野の定着が,今後の入試においてもポイントである。
2. 地域別では,昨年に引き続き日本に関する出題が目立った。観点や扱われる図表なども多岐に渡るが,自然環境や産業,人口などについての地域的な特徴や差異,近年の変化は着実に把握しておきたい。
3. 出題素材に関しては,統計表・グラフの出題が増加した。資料から読みとれる情報をもとに,一般性や原理原則に基づいた判断,資料を通した地理情報の分析力・解析力が求められる出題もみられた。日頃から多種多様な図表や資料に取り組ませて,その表現方法や目的を意識づけることが重要である。
4. 要求学力面では,資料の読み取りも含めた解答までのプロセスが重視される傾向が見られる。地理的見方・考え方や,地理的技能を重視する傾向は,主要国公立大を中心に今後も続くものと予測される。なお,地理的技能に関して,2008年度入試では作図・描画問題が増加した。指導要領で重視されているので地形図読図とも併せ基本事項はおさえておきたい。

倫理

1. 教科書レベルの重要な思想家を中心に,基本事項について意味・内容をしっかり理解しておくことが重視される。
2. 近年は「あなたはどう考えるか」という問い方が目立ってきている。哲学思想や宗教,あるいは現代の倫理的な課題について,自らどうとらえ,考えるかという主体的な姿勢を求める傾向は,今後も続くと考えられる。

政治・経済

1. 今後も,経済分野を中心とする原理・原則への理解が前提となる点は大きく変わらないが,応用的な問題に注意したい。
2. 形式面では,国公立大では,字数の多い論述問題や「小論文」的出題への対策も必要だが,私立大は各大学の傾向を整理しておくこと。青山学院大や中央大では,国公立大と同様に論述問題への対応も求められるため,他大学との併願時には注意が必要。

物理

1. 出題分野・範囲については年度による変化がほとんどないため,2009年度入試も「力学」と「電磁気」の両分野からの出題が中心となるであろう。また,「力学」と他分野との融合問題についても,各大学の出題傾向を研究した上で,入試問題の過去問演習を行うなどして,十分に対策しておきたい。
2. 2009年度入試も,計算問題の占める割合が全体的に高くなるだろう。そのため,問題演習を繰り返して計算力を養い,文字式の整理にも慣れておく必要がある。また,2008年度入試は,全体的に論述問題の出題割合が低下した。ただし,計算過程を記述させる設問においては,式の補足説明が効果的な場合も多いので,採点者に通じる論理展開と文章表現がなされた答案を作成する力は,依然として必須である。

化学

1. 標準的な≒見慣れた問題の出題割合が増加傾向にあるとはいえ,大学側が,やはり基礎・基本の定着と同時に,化学の確実な概念形成が行われているか否かの把握のために,受験生の対応力を問題で求めるのは当然であろう。2009年度入試は,化学平衡や物質の状態と性質など,従来から重視されてきた,より化学の本質に近い内容を問うことで,受験生の対応力が試される出題の傾向が強まると推測する。
2. 化学IIの選択分野については,2007年度入試に比べ2008年度入試ではトーンダウンした様子が見られ,この傾向は2009年度入試以降も継続すると推測する。2008年度入試では,2007年度入試まで出題していた大学のうちいくつかが出題分野を変更する形で,化学IIの選択分野固有の出題を行わなかった。いずれかの分野に依存する題材を扱う場合,受験生の背景知識を十分に考慮して差がつかないようにし,設問文に登場する用語についても同じく注意深く扱う必要があるため,題材が様々でも解答のレベルまで考慮すると扱う項目は限定されがちで,題材の選定において出題者側の負担の大きさが推測できる。個別試験に向けては,分野指定がされている特定大学志望の受験生はそれなりの対応が必要であるが,全体の指導としては,これまでと同様に,選択分野の共通項目,タンパク質・アミノ酸,糖類にウエイトを置いて行うことが有効であろう。
3. 圧力の扱いと体積の扱いについては,引き続き注意しておきたい。圧力の単位Paは,指数を含むので,k(キロ)h(ヘクト)などの接頭語を用いて表すことは珍しくない。この点については,教科書によって異なっている状況からも,大学間で統一が図られることは想像しがたい。現実的には,科学的に数値を正しく扱えるようにさせておくことが大切であろう。あわせて,体積の単位,リットル(lとL)も同様に,柔軟に対応できるように指導しておきたい。

生物

1. 2008度入試をもって,現行課程における今後の入試に出題されうるテーマが出揃ったようである。最新の研究に関連した出題もあるが,題材そのものの知識が十分になくても,その生命現象の意義や本質を理解していれば対処できる問題が多い。ただし,教科書で「発展」として扱われている内容にも,対応する必要があるだろう。
2. 大問単位でみると,一つの大問に二つ以上のテーマを含むものもあり,実験・観察問題も含めて,問題の文章量の増加が目立つ。問題文に空所を設け,大問の前半は基本的な用語や事項を問う問題を配置し,後半は考察・論述問題で応用力・思考力が試される問題が配置される場合が多い。論述問題には,生命現象やそのしくみについて説明・記述する知識をもとにした論述と,問題文の実験をもとに考察したり,示された仮説をもとに実験を計画する論述の二通りがある。このような出題の方向性からは,受験生のもつ生物の知識と,実験やその結果を分析・考察する力の両方をバランスよく見ていこうとする姿勢がうかがえる。それは高等学校の生物の学習目標である,生物現象の基本的な概念や原理・原則の理解と,実験・観察などによる,生物現象を探求する方法の習得といったものに合致したものであると思われる。

地学

1. 2008年度入試では,すべての分野から幅広く出題された。この傾向は従来からみられたが,2008年度入試において,これまで出題割合がやや小さかった海洋や恒星についての出題が増加した一方で,出題割合の大きかった地質や堆積岩についての出題が減少し,分野による出題割合の偏りが小さくなった。これらの分野の出題割合の増減は2006年度入試以降継続しており,この傾向が2009年度入試においても引き継がれることが予想される。
2. 2008年度入試に大きな傾向の変化はなく,2009年度も以下のような傾向で出題されることが予想される。すなわち,国公立大・私立大を問わず,論述形式と記述単答形式の出題割合が大きく,両者をあわせると全体の5割〜6割を占める。残りは,国公立大では計算や作図などの考察力や表現力を要する問題が多く,私立大では穴埋めや選択などの知識を確認するような問題が多い。