問題講評
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生物I

1.総評

【2009年度センター試験の特徴】 

・2008年度に比べて設問数、解答数が減少した。
・実験考察問題の占める割合が増え、実験方法および結果を理解・考察する力で差がつきやすい問題であった。
・第5問は4設問で構成され、1設問あたり5点と高い配点であった。


 知識問題と実験考察問題を織り交ぜた構成で、生物Iの各分野からまんべんなく出題された。設問数が減少した一方で、2008年度に比べて実験考察問題の割合が増加して配点の約半分を占めたため、解答に時間のかかる問題であった。
 知識問題は、教科書の基本的な知識を正確に身につけている受験生にとっては取り組みやすい内容であったが、正答するために複数の知識を求められるものもあった。実験考察問題は、いずれも複数のデータや実験結果から考察して結論を導き出す問題であった。第5問では、与えられたグラフから特定の要素のデータを抽出した別のグラフを考察させるなど、探究的で、高い考察力を求められる出題もあった。また、物質の作用について考察を求める出題が特徴的であった。
 2008年度に比べて設問数、解答数の減少、文章選択問題の減少など、文字量の負荷は小さくなったが、複数のデータから実験結果を考察させる問題の割合が増えたことで、考察問題の苦手な受験生、文系の受験生にとっては難しい問題であった。
2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数は昨年と同じ5大問。解答数は昨年より4個少ない28個。
【出題形式】 昨年に比べて、文章選択の形式が減少した。
【出題分野】 例年同様、特定の分野に偏ることなく、幅広く出題された。
【問題量】 昨年に比べて設問数は2問減り、解答数は4個減少した。また、5択及び6択の問題が減少し、7択以上の問題が大幅に増加した。
【難易】 昨年並。
3.大問構成

大問 出題分野・大問名 配点 難易 備考(使用素材・テーマなど)
第1問
多細胞生物の個体の形成
20点
標準
体細胞分裂、個体の形成
第2問
生殖と発生
20点
標準
A 植物の配偶子形成
B 卵成熟、受精
第3問
遺伝
20点
やや難
A DNAの構造
B 致死遺伝子、不完全優性
第4問
環境と動物の反応
20点
標準
A 恒常性
B 視覚にかかわるニューロン
第5問
環境と植物の反応
20点
やや難
A 光合成速度
B フロリゲンの合成
4.大問別分析

第1問「多細胞生物の個体の形成」

  • 昨年と同様に、細胞と組織に関する知識問題中心の内容であった。教科書にある基本的な用語の定義を確認する問題が半数を占めていた。
  • 問1は、多細胞生物の構成について、基本的な知識が問われた。
  • 問2は、動物細胞の体細胞分裂について、分裂の各時期を示した図を用いて、基本的な知識が問われた。解答番号4は、誤っている図の組合せを解答する問題であったが、図の誤りを探すという形式に戸惑った受験生もいたと推測する。また、解答番号4で間違えた場合、解答番号5では解答番号4で選択したものを除外して考えるため、解答番号5も間違える可能性が高い。
  • 問3は、植物体の構造に関する基本的な知識が問われた。
  • 問4は、分化した細胞の機能や形態、構造について、生物I全体から幅広い知識が問われた。2008年度(第1問 問4)と同様の形式の問題であった。

    第2問「生殖と発生」

  • 生殖と発生分野の出題は、3年連続でAが植物、Bが動物をテーマとする構成であった。
  • Aは、配偶子形成と性染色体の問題であった。
  • 問1は、ほ乳類と種子植物の配偶子に関する問題であった。選択肢がXY型とZW型を前提としていたため、戸惑った受験生もいたと推測する。
  • 問2は、雌雄異株である種と、無性生殖ができる生物を問う問題であった。雌雄異株の植物を問うのは目新しい出題であった。
  • Bは、卵成熟における物質の作用の実験考察問題であった。受精膜の形成など、現行課程における改訂前の教科書に比べて、改訂後に扱いが詳しくなった内容からの出題が多かった。1999年度九州大学(前期)個別試験(第4問)と類似の内容であった。
  • 問3は、実験結果から物質Xとメチルアデニンの作用を考察する問題であった。物質X、メチルアデニン、付属細胞、卵母細胞それぞれの関係を正確に読み取る必要があった。実験1〜4の条件と結果を比較して結論を導く問題で、高い考察力が求められた。
  • 問4は、メチルアデニンの作用について、実験1〜4に新たな実験結果を加えて考察する問題であった。前述の問3とともに、実験の意図を理解できたかかどうかで差がついたと推測する。細胞の表面で物質が作用し、細胞内の物質合成につながる、という内容は、どちらかというと個別試験に近いものであった。
  • 問5は、受精膜の形成およびその前後の過程に関する知識問題であった。多精拒否など、現行課程における改訂後の教科書で扱いが詳しくなった内容が含まれていた。

    第3問「遺伝」

  • Aは、いろいろな生物のDNA解析に関する問題であった。DNAそのものに関する問題は、2006年度以降初めての出題であった。塩基組成に関する問題は、1991年度生物本試験で出題されていた。
  • 問1は、DNAの構成要素の割合を示すデータから、1本鎖DNAを答える問題であった。二重らせん構造の特徴である、2本鎖DNAにおける各構成要素の相補的な関係を理解していれば、AとT、GとCの割合が同じであることをもとにデータを見ることで正答できる。1本鎖DNAの知識がなくても正答できるが、1本鎖DNAは教科書にない内容であった。
  • 問2では、精子の核1個あたりのDNA量について問われた。同じ生物では各構成要素の割合が等しいこと、核1個あたりのDNA量を比較したとき、精子は体細胞(問題では肝臓)の半分のDNA量であることを理解していれば、正答できる。
  • 問3は、DNAの構成要素の割合に関する計算問題であった。全体が100%であること、構成要素の相補的な関係を理解していれば、式を立てて計算することができた。
  • Bは、致死遺伝子、不完全優性に関する問題であった。
  • 問4では、優性、劣性の基本的知識が問われた。
  • 問5は、個体の遺伝子型を問う問題であった。問題文にある遺伝子の致死作用と、実験1の結果から考える問題で、容易に正答できたと推測する。
  • 問6は、個体D1の自家受精種子の表現型が問う問題であった。致死作用をもつ遺伝子Pのホモ接合体は発芽後2週間で枯死すること、本問では表現型の調査が発芽して10日後に行われている条件から、葉が黄色の個体も分離比に加えなければならないことがわかる。葉が黄色の個体を分離比に加えなかった場合の選択肢として適当なものはないが、条件を見落としたことで戸惑った受験生もいたと推測する。

    第4問「環境と動物の反応」

  • Aは、恒常性に関する問題であった。調節の中枢の名称やフィードバック調節についての、基本的知識が問われた。
  • 問1は、神経系に関する基本的な知識問題であった。
  • 問2は、恒常性における脳下垂体のはたらきに関する知識問題であった。脳下垂体がもつ様々なはたらきを踏まえて考える必要があり、知識が定着しきっていなかった受験生は、解答に迷ったと推測する。
  • 問3は、血糖量調節に関する知識問題であった。基本的な内容であったが、血糖量調節にかかわる神経、ホルモンの分泌器官、ホルモンと複数の要素が同時に問われたため、正確な知識が求められた。
  • Bは、光刺激の受容にかかわるニューロンの反応に関する問題であった。基本的な知識を踏まえてグラフを読み、その意味を理解して解答する必要があったため、思考力が求められた。
  • 問4は、オシロスコープの記録から、光刺激に対するニューロンXの反応について考察する問題であった。目新しい図であったため、図の示す内容を正確に理解できるかどうかがポイントであった。
  • 問5は、様々な強さの光刺激に対するニューロンXの反応について考察する問題であった。図2の片対数グラフを読み取ることができたかどうかで、差がついたと推測する。
  • 問6は、化学物質Y(抑制物質)に関する考察問題であった。問題文の内容と、図2の昼のグラフから活動電位の回数が0となる光刺激の強さがあることに着目することがポイントであった。選択肢中のニューロンXに関する記述は「反応を増強/低下させる」「閾値を上昇させる/低下させる」と2種類の表現がされており、それぞれの表現の意味を正確にとらえる必要があった。

    第5問「環境と植物の反応」

  • A、Bともに選択肢が多く、文章を読んで正答を判断するのには時間を要する問題であった。なお、20点配点で4設問という構成は異例であった。
  • Aは、温度、光の強さと光合成速度に関する問題であった。設問数は2問だが、温度と光の強さという二つの要素を考え、かつグラフを丁寧に読み取って考察する必要があった。
  • 問1は、光合成速度のグラフに関する考察問題であった。教科書には必ず掲載されている形のグラフではあるが、選択肢の内容吟味のためにはグラフを繰り返し参照しなければならず、すべての選択肢を丁寧に吟味すると大幅に時間がかかる問題であった。最初の選択肢が正答であったため、すぐに判断できた受験生は時間短縮ができたと推測する。
  • 問2は、光合成速度のグラフ(図1)から一部の要素のデータを抽出した別のグラフ(図2、3)について考察する問題であった。図1から抽出できる要素を考える必要があり、図2、3ともに、相対値が最も高い温度や、ほぼ一定になっている温度域など特徴的な部分に着目して、図1と比較すると考えやすかったであろう。目新しい内容であり、戸惑った受験生が多かったと推測する。
  • Bは、葉におけるフロリゲンの合成に関する問題であった。設問数は2問だが、実験条件が多く、丁寧に読み取る必要があった。
  • 問3は、花芽形成の実験結果に関する考察問題であった。実験条件が多くあったが、すべて図でも説明されていた。比較がしやすいため、図で考えると解きやすかった。また、フロリゲンに関する知識があれば、より解きやすかったと推測する。
  • 問4は、実験結果に対する考察をもとに、指定された実験結果をもたらす実験条件を推察する問題であった。実験の内容を正しく理解できれば正答にたどり着けるが、時間がかかるため、解答時間が残っていなければ難しかった。
    5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値) ※2005年以前は生物IBの平均点です。

    年度 2008 2007 2006 2005 2004
    平均点
    57.64
    67.04
    69.60
    51.58
    62.67
    6.2010年度センター試験攻略のポイント

  • 知識問題、実験考察問題が半々の割合で出題されると予想されるため、両方の対策が必要である。
  • 知識問題の対策は、教科書を中心として、正しい知識をしっかりと身につけることが最大のポイントである。生物Iの全範囲からまんべんなく出題されるうえ、やや細かい知識が問われることもある。
  • 実験考察問題の対策は、図や表、グラフから必要な情報を正確に読み取る練習を積んでおきたい。目新しいグラフや、複数のデータからの考察などは、過去の問題や模試の活用が効果的である。身につけた知識を応用した洞察力も、この練習によって高めることができる。
  • 長い問題文、特に実験条件や結果を示す文章をより速く正確に読み取ることが、必須である。解答時間との勝負であり、日頃から解答時間を決めて問題に取り組むなど、自分なりの時間配分を決められるようにしておくとよい。
  • 過去問からの引用が解禁されるため、過去問と類似した問題が出題される可能性がある。過去問の演習もしておきたい。
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