問題講評
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物理I

1.総評

【2009年度センター試験の特徴】 

・気体の状態変化が、現行の教育課程でははじめて出題された。
・一部の教科書で発展として扱っている項目について出題された。
・グラフ選択形式の問題が出題されず、計算を要する問題が増加した。


 昨年に比べて、第3問と第4問の配点がわずかに変更されたが、第1問の小問集合も含めた各分野の問題数にはほとんど変更がなく、全分野から幅広く出題された。また、グラフ選択問題が出題されなくなったこと、組合せ選択問題が昨年より4題増加したこと、4択の問題が出題されなくなったことなど、形式面で大きな変更がみられた。内容面では、オーソドックスな素材を用いながら、見慣れない考え方や答え方を要求する問題が目立った。
2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数は昨年と同じ4大問。解答数は昨年より2個減少して24個。
【出題形式】 昨年6問出題されたグラフ選択問題が今年は出題されなかった。また、4択の問題が出題されなくなり、6択の問題が昨年に比べて6問増加した。
【出題分野】 気体の状態変化が現行課程ではじめて出題された。全体としては、例年同様、特定の分野に偏ることなく、幅広く出題された。
【問題量】 昨年並。
【難易】 昨年並。
3.大問構成

大問 出題分野・大問名 配点 難易 備考(使用素材・テーマなど)
第1問
小問集合
30点
標準
第2問
生活と電気
20点
標準
A 箔検電器
B 電気量
第3問
波動
22点
標準
A 音波(定常波、ドップラー効果)
B 回折格子
第4問
運動とエネルギー
28点
標準
A 弾性力、弾性エネルギー、力のモーメントのつり合い
B 浮力、力のつり合い、運動方程式
C 気体の状態変化
4.大問別分析

第1問「小問集合」

  • 生活と電気、波動、運動とエネルギーの各分野から幅広く出題された。
  • 問1は、あらい面上における等加速度直線運動についての設問で、昨年と同様に完全解答で問われた。
  • 問2は、手回し発電機を用いた実験についての設問であった。発電機のしくみをおさえたうえで、電流の違いによる仕事の大きさの変化を考察できるかが問われた。
  • 問3は、糸でつるしたおもりの水平方向の等加速度運動についての設問であった。同様の問題に解答した経験がなければ、現象を理解しにくかったかもしれない。
  • 問4は、水中から見た全反射についての設問で、身近な素材を用いて物理的な考察力が問われた。
  • 問5は、気柱の共鳴についての設問であった。図を描きながら考えると解きやすかった。
  • 問6は、水力発電を素材とした仕事とエネルギーおよび仕事率についての設問であった。

    第2問「生活と電気」

  • Aは、箔検電器を素材としたオーソドックスな設問であった。
  • 問1は、箔検電器のしくみについての知識を問う設問であった。
  • 問2と問3は、箔検電器を用いた実験についての連続した設問であったため、問2が解けなかった受験生は、問3についても理解しにくかっただろう。この実験を経験した受験生にとっては取り組みやすい設問であった。
  • Bは、電池が流す電気量についての数値計算問題であった。問4と問5は、電気量について異なる観点で出題された。
  • 問4は、電気量と電流の関係、電流と電子の数との関係を合わせて考察する設問であった。
  • 問5は、携帯電話用の電池という身近な素材を用いた設問であり、問題文では触れられていないが、電力量と関連付けて考察する必要があった。

    第3問「波動」

  • Aは、向かい合う音源を素材とした設問で、音の伝わり方や定常波、ドップラー効果といった現象について問われた。素材が2005年度物理IB本試験第4問に類似していた。
  • 問1は、音波が届く時間の差から、スピーカーと測定器の位置を求める基本的な設問であった。
  • 問2は、音波の定常波についての設問であり、問題文から定常波の波長を読み取れるかがポイントであった。
  • 問3は、ドップラー効果とうなりについての設問であった。一部の教科書では発展項目として扱われている、観測者(測定器)が動く場合のドップラー効果を素材に、計算をせずに解答できる形式で出題された。
  • Bは、回折格子による光の干渉を素材とした設問であった。
  • 問4は、素材はオーソドックスだが、角度を問うという点が目新しかった。
  • 問5は、白色光の干渉によるスペクトルについての知識を問う典型的な設問であった。

    第4問「運動とエネルギー」

  • 第4問は、2008年度のA、Bの二つに分ける構成から、2007年度以前と同様のA、B、Cの三つに分ける構成に戻った。
  • Aは、ばね定数が異なる2本のばねでつるした棒のつり合いに関する設問であった。
  • 問1は、力のつり合いについての設問であった。ばねの並列接続はあまり見慣れないが、問われている内容は基本的であった。
  • 問2は、二つのばねの弾性エネルギーの比を求める設問であった。伸びの長さが同じであることに着目すればよい。
  • 問3は、力のモーメントのつり合いについての設問で、棒にはたらく力を読み取ることができれば難しくなかった。
  • Bは、水面に垂直に浮かべた浮きを素材として出題された。
  • 問4は、浮力と重力のつり合いの式についての設問で、計算がやや複雑であった。
  • 問5は、運動方程式についての設問で、上向きに作用する力の合力を見抜く洞察力が問われた。
  • Cは、気体の状態変化についての設問であった。現行の教育課程でははじめて出題されたため、戸惑った受験生も多かったと思われる。
  • 問6は、状態変化を表すグラフから温度の大小を求める設問であった。物理Iの発展項目あるいは物理IIで扱われている、ボイル・シャルルの法則についての知識があると解答しやすかった。
  • 問7は、気体がピストンにした仕事の正負についての設問であった。仕事をする場合とされる場合について把握できていれば、解答することができた。
    5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値) ※2005年以前は物理IBの平均点です。

    年度 2008 2007 2006 2005 2004
    平均点
    64.55
    64.42
    73.42
    59.97
    62.92
    6.2010年度センター試験攻略のポイント

  • 全範囲から幅広く出題される傾向が継続しているため、苦手分野をつくらないようにまんべんなく学習しておく必要がある。センター試験においては、飛び抜けて難しい問題が出題されることはほとんどないので、基本事項を確実に理解することが大切である。
  • 2009年度は、観測者が動く場合のドップラー効果や、ボイル・シャルルの法則といった教科書で発展項目として扱われている内容についても出題された。物理Iのみを履修する場合であっても、発展項目にも目を通しておくとよい。
  • 全体的にオーソドックスな素材を用いた設問が多く、過去に出題されたものと類似の素材を用いた設問もいくつかみられたので、過去の問題について十分な練習をしておくとよい。ただし、解答に至るまでの考え方や問い方はあまり見慣れない設問が多いため、解法の暗記だけでは対応できない。問題文や図から現象を把握して式を立てるまでの過程を重点的に練習しておきたい。
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