問題講評
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日本史B

1.総評

【2009年度センター試験の特徴】 

・選択肢の文章量が増加し、正確な判断が求められたため、昨年より難化した。
・形式では、6択の年代整序問題が出題され、語句組合せ問題が減少した。
・分野別では、政治史に比重がおかれ、外交史の出題が増加し、文化史が減少した。


 大問数や解答数には変化がみられないが、形式面では語句組合せ問題が減少し、2行の文章選択問題が増加した。また3文の正誤判別問題がなくなり、年代整序問題は4問で、すべて6択で出題された。分野別では、昨年と同様に政治史に比重がおかれたが、一方で外交史の出題割合が増加しており、近年は増加傾向にある。時代面では、戦後史からの出題は昨年並の4問で、近現代史は、昨年と同様に約4割出題された。なお、日本史Aとの共通問題は2大問(35点分)で昨年と同じであった。
2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数6と解答数36個は、昨年と変更なし。第5問・第6問が日本史Aとの共通問題。
【出題形式】 語句組合せ問題が減少し、2行の文章選択問題が増加した。また3文の正誤判別問題がなくなり、年代整序問題は4問で、すべて6択で出題された。図版や史料が多用され、史資料の読み取り問題もみられた。
【出題分野】 近現代史の割合は昨年並。戦後史からは4問出題された。政治史に比重が置かれているが、外交史が増加し、文化史が減少した。
【問題量】 昨年並。
【難易】 昨年より難化。
3.大問構成

大問 出題分野・大問名 配点 難易 備考(使用素材・テーマなど)
第1問
地方行政区画の歴史的変遷
12点
やや難
A 古代の地方行政区画
B 近世以降の地方行政区画
第2問
原始から中世初期までの社会・文化
18点
やや難
A 弥生時代の社会
B 律令制の仕組み
C 10世紀から12世紀の社会と文化
第3問
中世から近世初期までの政治と外交
18点
やや易
A 鎌倉幕府の成立と諸制度
B ヨーロッパ人の来航と南蛮貿易
第4問
近世の政治と社会
17点
標準
A 江戸の発展
B 江戸時代の手工業の発達
第5問
近代の政治・社会
12点
標準
普通選挙制の展開と思想弾圧
第6問
幣原喜重郎と近現代の政治・外交
23点
やや難
A 第一次世界大戦前後の外交
B 協調外交の挫折
C 占領政策と講和条約
4.大問別分析

第1問「地方行政区画の歴史的変遷」

  • 近年と同様にテーマ史が出題された。現行課程で重視されている「主題学習による歴史的考察」の要素を反映した問題で、地方行政区画の歴史的変遷をテーマとして政治史を中心に出題された。正確な歴史用語の知識が求められるなど判断に迷う設問もみられ、大問全体ではやや難しかった。
  • 問2は律令国家の地方支配に関する問題であった。選択肢4は素材として使用された地図がヒントになっていることに気付けば、解答することは容易い。
  • 問3では沖縄・蝦夷地と中央との関係が問われた。琉球の王権の変遷や貝塚文化などについて出題されたが、時期と内容の両方の判断が求められ、やや難しかった。
  • 問5では三新法について出題された。それぞれの正確な内容の判断が求められており、センター試験の問題としては難しい。

    第2問「原始から中世初期までの社会・文化」

  • Aでは弥生時代の社会、Bでは律令制の仕組み、Cは10世紀から12世紀の社会と文化について出題され、原始からは2問出題された。またリード文に関連させて図版が4点使用された。全体の難易としては、2行の選択肢の問題が多く、落ち着いて文章を読んで正確に判断していくことが求められたため、やや難しい。
  • 問1では弥生時代の集落について出題されたが、選択肢の文章が長いため、じっくり文章を読んで正誤を判断していくことが求められた。
  • 問2では『後漢書』東夷伝や『魏志』倭人伝に関する内容の判断が求められた。頻出史料であり確実に整理できていればさほど難しくないが、朝鮮式山城の築かれた時期の判断に迷った受験生もいたであろう。
  • 問4では律令国家の地方事業について問われた。分野の異なる事象の時期判断が求められ、キーワードから関連する人物などを連想していく必要があった。
  • 問6は院政期の文化が出題された。田楽の発展についての歴史的理解が問われたため、文化史の学習が十分でない場合は苦戦したことが予想される。

    第3問「中世から近世初期までの政治と外交」

  • Aでは鎌倉幕府の成立と諸制度、Bはヨーロッパ人の来航と南蛮貿易について出題された。基本事項に関する出題が多く、全体的に最も取り組みやすい大問であった。
  • 問3は御成敗式目が定められた理由について問われた。リード文から法令名を明らかにすることが求められた。御成敗式目の内容だけでなく、当時の社会情勢を把握できているかがポイントとなった。
  • 問5は近世のキリスト教宣教師の活動について出題された。「神学校」というキーワードからコレジオやセミナリオといった歴史用語を連想することができれば迷わず解答できたであろう。
  • 問6では南蛮貿易について図版を用いて出題された。正答となる南蛮屏風と天草版『平家物語』は、教科書などに掲載されている基本的なものなので、落ち着いて取り組みたい。

    第4問「近世の政治と社会」

  • Aでは江戸の発展、Bは江戸時代の手工業の発達について出題された。社会経済史は受験生が苦手としがちな分野であり、史料の読解や図版の読み取りも出題されており、やや難しい設問もみられた。ただし、政治史は基本事項が問われており、総合的には標準的な大問であろう。
  • 問4では『北越雪譜』の史料読解問題が出題された。丹念に史料を読み、縮の生産に関する特徴を正確に把握していくことが求められた。
  • 問5では『尾張名所図会』の図版の読み取り問題が出題された。問屋制家内工業とマニュファクチュアの違いが理解できていれば解答は難しくない。
  • 問6は設問文に示された鈴木牧之の生没年(1770〜1842)から時代を特定して解答する問題。正答は寛政の改革の内容であったが、誤答はいずれも17世紀の出来事であった。年代の乖離が大きく判断しやすい。

    第5問「近代の政治・社会」

  • 普通選挙制の展開と思想弾圧について出題された。やや細かい歴史用語の判断が求められた設問もみられたが、近現代の政治史のなかでも比較的オーソドックスなテーマからの出題であったため、受験生にとっては標準的な難易の大問になったであろう。なお、日本史Aとの共通問題であった。
  • 問3では、大阪事件など近代の社会運動について問われた。伊藤野枝はやや細かいが、誤答の「与謝野晶子」に着目できれば解答に迷うことはないであろう。
  • 問4では、人民戦線事件や大内兵衛について問われたが、やや細かく、判断に迷った受験生もいたであろう。

    第6問「幣原喜重郎と近現代の政治・外交」

  • 幣原喜重郎をテーマに、Aは第一次世界大戦前後の外交、Bは協調外交の挫折、Cは占領政策と講和条約について出題された。統計資料の読み取り問題が出題され、戦後史はサンフランシスコ講和前後までから3問出題された。全体的にはやや難しい。なお、日本史Aとの共通問題であった。
  • 問3では小作争議の件数と規模を示した表の読み取りが求められた。普通選挙法の成立(1925)と世界恐慌(1929)の年代をおさえられているかどうかポイントになっている。そのうえで選択肢の文章を冷静に判断し、表から情報を読み取りたい。
  • 問5では、日中戦争にいたるまでの日中関係について、年代整序形式で出題された。選択肢の文章から「南京事件」などの具体的な事件名を連想していくことが求められた。
  • 問7では戦後の改革期の経済対策について出題された。配給制度や価格等統制令の撤廃時期の判断はやや難しく、戦後史の対策ができていたかどうかで差がついたであろう。
    5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

    年度 2008 2007 2006 2005 2004
    平均点
    64.27
    67.02
    54.66
    59.27
    56.52
    6.2010年度センター試験攻略のポイント

  • 昨年に引き続き、2009年度日本史Bでは現行課程で重視されている「歴史と資料」に対応した史料読解型の問題や図版の読み取り問題が出題された。今後もこの傾向が続くことは十分に考えられる。まずは日頃から教科書の内容の理解とあわせて、関連する史資料を確認することが大切である。史資料に慣れることで、センター試験で初見の史資料が出題された場合でも落ち着いて取り組めるようにしておきたい。また近現代史では、文献史料だけでなく、グラフなどの統計資料を確認しておくことも重要である。
  • センター試験では、文章の正誤判断を求める問題が中心である。歴史用語の基本的な知識を問うものだけではなく、正確な内容理解が問われることも少なくない。このような問題に対しては、単なる語句の暗記では対応できないので、語句を内容とあわせて理解することを徹底したい。歴史用語を短い文章で説明するような練習を積んでおくことも効果的である。
  • そのほかの傾向として、時代の流れの理解を問う出題が挙げられる。2009年度の問題でも年代整序形式での問題だけでなく、正誤判別問題でも特定の時代の動向や展開を問うものは、一定の割合を占めている。対策としては関連する項目の因果関係を把握したうえで歴史の流れを整理していくことが重要である。また時代ごとの整理に加え、同時代の異なる分野ごとの歴史事項のつながりを、政治史を軸に横断的にとらえることで理解を深めていくことも欠かせない。
  • 分野と時代に関しては、政治史と近現代史に比重がおかれているが、ほぼまんべんなく出題されており、苦手な時代や分野をつくらないことが大前提である。また、通史も毎年出題されているので、「教育史」「法制度史」「信仰・宗教史」といった頻出のテーマについては対策を行っておきたい。このほかにも、学習がおろそかになりやすい戦後史は、文化史を含めて少なくとも1970年代までの動向はおさえておく必要があるだろう。
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