問題講評
PDF版 へ

世界史B

1.総評

【2009年度センター試験の特徴】 

・社会史的な観点、「接触と交流」など現行課程のねらいに即したテーマでの出題が踏襲された。
・地域の網羅性は昨年同様に高く、アフリカ、オセアニア、北欧の出題が見られた。
・時代・地域ともに幅広く扱う傾向が踏襲され、分野は大問のテーマに即した設問で特に融合的に出題された。


 大問構成、解答数、設問の出題形式に大きな変化はなかった。各大問のテーマは、社会史的な観点、「接触と交流」など現行課程のねらいに即した出題であった。時代・地域を幅広く扱う傾向は、昨年強調された感が強かったが、2009年度も踏襲された。また、分野のバランスは例年並であったが、大問のテーマに即した出題が例年より多くなり、その設問中で融合的に扱われる傾向が顕著であった。時代は、前近代から近世までがやや増加し、近代がやや減少した。地域は、アフリカ、オセアニア、北欧などの周辺地域に特化した出題、1設問中で幅広い地域を扱う傾向が昨年特化されたが、2009年度も同様であった。素材問題は、地図問題、写真を用いた問題がそれぞれ2問出題された。2つの語句、文章と図版などの組合せ、2文の正誤判別問題など、1設問中で複数の判断を要求する設問が目立った。難易は昨年よりやや易化した。
2.全体概況

【大問数・解答数】 昨年通り、大問数は4で解答数36個であった。
【出題形式】 地図問題が3問から2問に減少し、写真を用いた出題が2問見られた。2つの語句、事項と地図または図版など、組合せの問題が増加した。2文の正誤判別問題が2問から5問に増加した。昨年2問出題された年代整序は、今年は出題されなかった。
【出題分野】 時代は、時代縦断的な出題がより重視された中で、前近代から近世までがやや増加し、近代がやや減少した。地域は西欧・東アジアを重視する例年の傾向が踏襲された。また、周辺地域を積極的に扱う傾向、1設問中で幅広い地域を扱う傾向が昨年特化されたが、今年も同様であった。分野のバランスには大きな変化が見られなかったが、1設問中で政治・文化・社会経済を融合的に問う設問が目立った。
【問題量】 昨年並。
【難易】 昨年よりやや易化。
3.大問構成

大問 出題分野・大問名 配点 難易 備考(使用素材・テーマなど)
第1問
生業と労働の歴史
25点
やや易
A 明代における文化・芸術の担い手
B アルプス以北のヨーロッパの農民・下層民
C アメリカにおける産業構造の転換と労働問題
第2問
世界史における学校・教育
25点
標準
A 中世ヨーロッパの大学成立
B 儒教と西洋の科学技術・学問
C 北欧・東欧の歴史教材
第3問
信仰や宗教
25点
やや難
A 東北アジアの信仰
B 東南アジア・オセアニアへの宗教伝播
C ヨーロッパにおける贖罪の起源
第4問
移動と移住
25点
標準
A ラテンアメリカ
B インド
C 中央ユーラシア
4.大問別分析

第1問「生業と労働の歴史」

  • Aでは明代における文化・芸術の担い手、Bではアルプス以北のヨーロッパの農民・下層民、Cではアメリカの産業構造の転換と労働問題について取り上げ、各地の人々の生活と関連させた社会史的なテーマの大問であった。出題内容は、リード文で扱った地域が主となり、テーマに関連の深い社会経済史の出題がやや多かった。
  • 問2では明代の出来事について問われた。中国で日本銀が流通した時期は、アメリカ大陸からの銀流入、一条鞭法の実施との関連でおさえられていれば判別は可能。
  • 問5は15世紀後半から16世紀前半における同時代の出来事を判別させる問題。ドイツにおけるシュマルカルデン同盟の結成は、ルターの宗教改革との関連事項と結びついていれば、16世紀前半と想起できただろう。マラータ同盟は、活動時期は漠然と想起できても、結成時期までは判別が難しい。
  • 問6では兵制や兵士に関する事項を、時代・地域ともに分散して扱った出題であった。八旗の創設はやや判断しづらいものの、イェニチェリをおさえられていれば正答を導くことは可能。
  • 問8はアメリカの産業・経済、問9は労働問題について問われ、大問のテーマに即した出題であった。いずれも19世紀から20世紀の出来事を扱い、比較的長いスパンの中でそれぞれの知識の正確な理解が求められた。教科書の単元ごとに知識を定着させた上で、単元をこえた様々なスパンで出題されても動じないように、対策しておく必要がある。

    第2問「世界史における学校・教育」

  • Aでは中世までのヨーロッパ、Bでは10世紀から現代までの中国、Cでは近現代の北欧・東欧における教育をテーマとして出題された。受験生の日常生活に関連のある、社会史的なテーマであった。北欧、北アフリカ、朝鮮、日本、東南アジアなどの周辺地域が含まれ、地域網羅性の高い出題であった。
  • 問3では12世紀における各地の王朝の興亡を問われた。鎌倉幕府の成立は、中学までの学習で対応できただろう。また、レコンキスタによってナスル朝が滅亡、チンギス=ハンによってホラズム朝が打倒などのように原因が有機的に把握できていれば、時期を想起しやすい。ただし、アユタヤ朝の成立は、その契機までは教科書でもあまり強調されないため、受験生には判別が難しい。
  • 問4では、中国・朝鮮の官吏登用制度について問われた。高麗の科挙採用は積極的に正答を選びにくく、消去法で選べたかどうかがポイント。中国の郷挙里選、九品中正、殿試について、それぞれ創設・実施の時期は、定番の出題であるため、誤りを判別しやすかったと思われる。
  • 問7は大問のテーマに即し、イギリスの教育法、アズハル学院の知識についての二文の組合せ問題。イギリスの教育法の制定については、教科書などであまり強調されておらず、時期の判別も含まれていたことから、受験生にとっては難しい選択肢であった。
  • 問8は北欧4国についての文章選択問題。教科書などでは分散して取り上げられる地域であるため、受験生にとって苦手としがちな地域の一つであろう。また、ノルウェーの独立承認、第二次世界大戦中のスウェーデンの状況については、教科書などで詳しく触れられていない内容であったことから、これらの判別は厳しかったと思われる。ルター派の伝播について、北欧方面であることは教科書で触れられるものの、具体的に国名を示されると戸惑い、正答を積極的に判断しづらかっただろう。
  • 問9では、地図を用いてユーゴスラヴィアに関する知識が問われた。受験生が苦手としがちな東欧・冷戦崩壊後の事項であったため、やや難しかったと思われる。

    第3問「信仰や宗教」

  • Aでは東北アジアにおける建国と信仰の関わり、Bでは東南アジア・オセアニアの精霊信仰と宗教の伝播、Cではヨーロッパにおける贖罪の起源について取り上げ、信仰・宗教が国の統治や人間の生活に深く関わっていることについて扱ったリード文であった。近年継続して見られる、「接触と交流」の趣旨を反映したテーマであった。東南アジア、オセアニアに特化した出題が含まれるなど、周辺地域を積極的に絡めた地域網羅性の高い大問であった。
  • 問1では古代の宗教の特徴や伝播、問5ではイスラーム教とその文化の広がりなど、大問のテーマに直接絡めた出題が見られた。
  • 問2は高句麗の4〜7世紀が通史として問われた。高句麗と周辺国との攻防や関係の変化は、教科書では分散して扱われがちなため、受験生にとっては苦手としやすい部分である。百済を滅ぼしたのは、高句麗ではなく新羅であることをおさえていたかどうかがポイント。
  • 問4ではドンソン文化の銅鼓とアンコール=ワットの写真を用いて、東南アジアにおける宗教・文化について問われた。アンコール=ワットの建造当初はヒンドゥー教であったことは、やや詳細な知識であり、受験生には難問であった。
  • 問6では近代以降の欧米勢力によるオセアニアへの進出に関して問われた。世界史の学習のなかでオセアニアに関する事項の割合は極小であるため、学習が十分行き届いていなかった受験生もいただろう。ただし、クックがオセアニアを探検したことを理解できていれば、消去法で判別が可能であろう。

    第4問「移動と移住」

  • Aではラテンアメリカ、Bではインド、Cでは中央ユーラシアにおける移民・先住民の状況を中心に展開し、民族移動や対外進出などのテーマに即した出題を含み、「接触と交流」の趣旨を反映した大問であった。
  • 問1ではラテンアメリカ、問4では中国・インドにおける古代文明の事項が問われた。問4は、甲骨文字、ギリシア文字、インダス文字の写真を示し、文字の特徴を視覚的に判断させる基本的な設問であった。
  • 問6はイギリスの植民地となったアフリカ・東南アジアについての出題。植民地の獲得の経緯、支配地域の併合、戦後の独立の状況など、知識を整理できていれば正答を導くことは可能。
  • 問8では中国とその周辺諸民族との関わりを中心に問われた。王朝ごとに周辺に位置した民族、接触のあった民族を理解できているかが求められた。
  • 問9は、セルジューク朝が西進した経路を地図上で判断させる出題であった。セルジューク朝の領域を想起できれば判別しやすい。また、リード文中の「ビザンツ帝国を脅かす」が参考となった。
    5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

    年度 2008 2007 2006 2005 2004
    平均点
    58.98
    67.75
    66.25
    63.16
    61.47
    6.2010年度センター試験攻略のポイント

  • 世界史Bでは、教科書にある内容をそれぞれ丁寧におさえておくことが欠かせない。一つの地域や時代の枠内で重要事項をきちんと整理し、それぞれの時代の特徴を把握した上で、同じ時期のヨコのつながりや時代の枠組みをこえたタテのつながりを意識しながら学習を進めるよう促したい。また、先史時代から戦後史まで含めてまんべんなく学習しておくことが定石である。
  • ヒトやモノの移動、接触と交流、社会史的なテーマ、生活に身近なモノから見た歴史など、複数の地域が絡む事項は相互の関係や時代背景、その後の影響などを丁寧に整理しておきたい。また、東南アジア・朝鮮・中央アジア・ラテンアメリカ・アフリカなど教科書で分散して扱われる地域については、中国や西欧、アメリカなどの動きに並行させて民族・王朝・国家などの時期を把握しておくよう注意したい。なお、これらの地域についても戦後史まで含めて通史として振り返っておく機会を必ず設けることが必要である。
  • 一つの事項が該当する時期・地域を確認するとともに、その背景・原因となった事象や、その後の社会に与えた影響など、有機的な関連性を日頃から意識的に把握させておきたい。個別の事項の詳細に踏み込みすぎず、歴史の流れを大局的にとらえさせる機会をバランスよく設けるよう心がけたい。
  • 同時期にほかの地域で起こった出来事が結びつくように、世紀ごとに世界を見渡すことに慣れておきたい。まずは、単元ごとにタテの流れをしっかり把握した上で、それぞれの出来事を●世紀の前半・後半に分類できるように備えておくとよいだろう。学習を進める度に、図説などの「●世紀の世界」として示されたページと、地域ごとに配列された年表を活用しながら、既習事項との関連をおさえ、より理解を深める機会を設けるようにしたい。
  • 王朝や都市は、関連事項とその位置を地図で確認しながらセットでおさえるよう習慣づけておきたい。同時期のヨコのつながり、王朝・国家の支配領域についても、同時期に存立していた王朝や隣接する王朝などにも注意しながら、図説などの地図を活用して視覚的におさえておくことが欠かせない。なお、受験生が地図を見るときの目安となるように、教科書本文で触れられる主要な河川や半島などの位置も合わせて確認し、補っておくことが望ましいだろう。
    ベネッセコーポレーション 駿台予備学校