・文章資料の読み取りを求める問題が増加し、読解力が求められた。
・基本的な知識を求める問題や、丁寧に読解・考察すれば解答が可能な素直な問題が中心。
・難易はやや易化。
大問構成や出題分野、解答数などの出題形式は昨年と同様で、現行課程に移行してから変化していない。基本事項を中心に思想の理解や思考力を求めるものが多く、日ごろの学習成果が表れる出題であった。現代の諸課題は、近年出題のなかった生命倫理からの出題が見られた。また、初見の文章資料の読み取り問題が昨年より増加しており、リード文の趣旨を判別する問題などとあわせて読解力が求められた。 |
【大問数・解答数】 | 大問数5、解答数は37個で昨年から変更なし。 |
【出題形式】 | 文章資料の読み取りを求める問題が増加し(3→6)、読解力が求められた。昨年増加した組合せ問題は減少し、例年並となった(6→1)。 |
【出題分野】 | 現代思想からは、フーコー、ハーバーマスが出題された。なお、誤答の選択肢ではあるが、「脱構築」が扱われた。 |
【問題量】 | ほぼ昨年並。 |
【難易】 | やや易化。 |
大問 | 出題分野・大問名 | 配点 | 難易 | 備考(使用素材・テーマなど) |
第1問 |
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第2問 |
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第3問 |
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第4問 |
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第5問 |
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第1問「人生と悩み」(青年期)
悩みを切り口としたリード文から、青年期に関して3問出題された。例年と同様、図の読み取りや具体事例の判断について出題された。 | |
問1は今回唯一の統計図の読み取り問題で、20歳以上の男女を対象にした悩みや不安を感じる内容についての調査結果に関する統計が用いられた。落ち着いて図を読み取っていけば解答自体は易しい。 | |
問2は自我同一性を見失っている心理状態の具体事例を通して判断する問題。自我同一性の危機が青年期だけではないことが理解できていれば、正誤判断は容易である。 | |
問3はエリクソンの発達段階とその特徴についての組合せ問題。発達段階と特徴を丁寧に対応させていけば難しくない。 |
第2問「復讐心の克服」(源流思想)
「復讐心」をテーマとして源流思想ながら現代的意味を持ったリード文から、ソクラテス、孔子、エピクロス、アリストテレス、パウロ、イスラーム、ブッダ、老子について、基本事項を中心に出題された。全体的に取り組みやすい大問であった。 | |
問1の「恕」を選ぶ問題は、「仁」も「他者に対する思いやり」という意味を持つため、迷った受験生がいたのではないか。 | |
問2・3はそれぞれエピクロスが提唱した生活信条とアリストテレスの調整的正義を選ぶオーソドックスな問題。基本的な理解があれば解答できる。 | |
問4は『新約聖書』の「ローマ人への手紙」の資料読み取り問題。資料中の「復讐するは我にあり」の「我」が神をさしていることを読み取れるかどうかがポイント。 | |
問5はイスラームについて誤りの文を選ぶ問題。他の選択肢は迷うものもあるので、喜捨が「為政者への献金」という部分から積極的に誤りを判断できたかどうかがポイント。 | |
問6・7はそれぞれブッダの教えと老子の「争いを避ける生き方」に関する出題。基本的な理解があれば迷わずに正答が選べる。 |
第3問「日本人の他界観」(日本思想)
「他界」をテーマとしたリード文から、狂言の資料読み取り、源信、荻生徂徠、神仏習合、古典落語の資料読み取り、幸徳秋水などに関して出題された。例年のような古文の書き下し文の出題はなかったが、狂言や古典落語といったユニークな資料を用いた出題があった。 | |
問2は狂言『節分』のあらすじをもとにした資料の読み取り問題。リード文に示された、折口信夫のまれびとと結びつけながら丁寧に読めば難しくはない。 | |
問3は『往生要集』が重視した修行の内容を選ぶ問題。正答の源信の観想念仏が積極的に選べなくても、誤答選択肢はそれぞれ該当する思想家が明確なので、消去法で解答できる。 | |
問4は荻生徂徠について選ぶ問題。正答の選択肢にはキーワードがないが、誤答の選択肢には「近江聖人」『聖教要録』「誠」などのキーワードがあり、そこから判断できる。 | |
問5は神仏習合に関して誤りを選ぶ問題。近代の国家神道や廃仏毀釈についての理解がないと解けず、やや難しい。また、残りの選択肢も本地垂迹説や権現信仰と具体事例が結びつきにくかったかもしれない。 | |
問6は古典落語を資料としたユニークな問題。西方極楽浄土の知識がなくても、リード文の「沈む太陽を拝み、遥かな極楽浄土を想い観る」から判断できる。 | |
問7は幸徳秋水について選ぶ問題。著作の『廿世紀之怪物帝国主義』を知らなくても、誤答の選択肢には「私擬憲法」「公害問題」「実学」とキーワードが明確で判断しやすいため、消去法でも解答できる。 |
第4問「近代理性の見直し」(西洋思想)
「理性」をテーマとしたリード文から、啓蒙思想家、デカルト、ベンサム、キルケゴール、パースの資料読み取り、フーコーなどに関して出題された。全体的にキーワードではなく、内容の判断が求められた。 | |
問1は選択肢4が「主体的」から「現実的」に問題訂正された。ヘーゲルのカント批判では、主観的というのが一般的で、正答の「抽象的」というのは判断に困った受験生もいただろう。 | |
問2はフランス啓蒙思想家についての出題。正答のヴォルテールの「ロックの経験論に学び」の部分の判断は難しい。 | |
問3はデカルトについての出題。頻出の内容ではあるが、誤答選択肢にも「良識」「高邁の心」などのデカルトのキーワードがあり、思想の正確な理解が求められる。 | |
問4はカントに対するベンサムの考え方に関する出題。誤答選択肢にも「快楽を最大にする」「幸福の総和が増大する」などそれらしいことばが入っており、ベンサムの思想を正確に理解していないと迷っただろう。 | |
問5はキルケゴールについての問題。実存の三段階が理解できていれば難しくない。 | |
問6はパースの「いかにしてわれわれの観念を明晰にするか」を用いた資料読み取り問題。資料の「行動の仕方の相違によって区別される」という部分が正答の「行動の仕方の違いに注目すべきである」につながることが読み取れるかどうかがポイント。 | |
問7はフーコーについての出題。正答に「狂気」があり判断しやすいが、誤答選択肢に「脱構築」やレヴィナスが扱われた点が注目される。 | |
問8はリード文の趣旨に照らして、下線部の「新たな展望」とはどのようなものであると考えられるかを問う問題。リード文の趣旨から正答を類推しなければならず、受験生には難しかったと思われる。 |
第5問「正しい行為とケアの倫理」(現代の諸課題)
正しい行為とケアの倫理をテーマとしたリード文から、ハーバーマス、オタワ条約、ユネスコ憲章、緩和ケアの資料読み取り、キャロル・ギリガンの資料読み取り、現代の日本社会の家族などに関して出題された。近年出題のなかった生命倫理からの出題が見られた。また、昨年同様1つのリード文から出題された。資料の読み取り問題や選択肢が3行の文章選択問題が多いため、試験時間の後半で解答時間が不足ぎみの受験生も多かったのではないか。 | |
問1はハーバーマスについての出題で、対話的理性の理解が問われた。正答にはキーワードがないが、誤答選択肢はロールズ、ロック、ルソーと判断しやすい。 | |
問2は非人道的な行為を防ぐ国際社会の取り組みに関する時事問題。正答のオタワ条約についても批准国まで判断するのは難しく、国際刑事裁判所、化学兵器禁止条約など「現代社会」「政治・経済」レベルの知識を求めるものであった。「倫理」受験生には難問であっただろう。 | |
問3はあらゆる人びとが平等に尊重されるための取組に関して、誤りを選ぶ問題。「子どもを救援することを目的」がユネスコではなく、ユニセフであることに気づけたかどうかがポイント。 | |
問4は緩和ケアについて資料をもとに考える問題。図から治療が身体的苦痛のみに集中するわけではない点を読み取って判断する。 | |
問5はキャロル・ギリガンの『もうひとつの声』を用いた資料読み取り問題。設問に「エイミーの責任感にケアの倫理が典型的に表れている」とあるので、資料文のなかのエイミーの立場を読み取ればよい。問いと資料をよく読んで判断することが求められる。 | |
問7はリード文の趣旨を踏まえてリード文の最後にある空欄を補充する問題。リード文の最後に入る文章を選ばせるという形式は目新しい。リード文で述べられている、ルールに従うことが常に正しいとは限らないという文脈をとらえることがポイント。そこから選択肢を丁寧に見ていくと正答にたどりつける。 |
年度 | 2008 | 2007 | 2006 | 2005 | 2004 |
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例年、思想家や思想の内容理解を問う出題が中心なので、重要語句は、用語だけでなく、その意味内容までおさえる学習を徹底しておきたい。その上で相違点や共通点、思想史的な流れも押さえておくと効果的である。 | |
資料読解問題は例年出題される。読解力・論理的思考力を問う出題は慣れることが必要なので、類題演習を積んでおきたい。 | |
現代の思想家は、フーコーやハーバーマスなど構造主義・ポストモダン・フランクフルト学派などの思潮、さらにロールズやアマーティア・センといった近年注目度の高い人物を一通りおさえておきたい。 | |
現代の諸課題については、「倫理」の枠にとらわれずに学習することが重要である。教科書・資料集レベルのキーワードを一通りおさえるとともに「政治・経済」などの用語集なども併用して、時事的な問題に対応できるようにしておきたい。また、日頃から新聞やニュースに目を通しておき、主要な課題については、課題のポイントや制度面の動きを把握しておきたい。 |