問題講評
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現代社会

1.総評

【2009年度センター試験の特徴】 

・分野融合的な大問が散見された。
・国際分野の出題が昨年より減少。他の項目は、環境、青年期、課題追究(調べ学習)などバランスよく出題。
・6択・8択の組合せ問題が昨年より増加した(2→7)。


 大問数6、解答数36個は昨年から変更なし。分野融合的に出題され、第2問は経済と政治、第5問は国際政治・国際経済・国際化を中心とした構成であった。受験生が苦手としがちな国際分野の出題が減少した一方、環境や青年期などの各分野からバランスよく出題。課題追究(調べ学習)の出題も例年通りみられた。形式では、統計資料の読み取り問題は2問出題され、また6択・8択の組合せ問題が増加した。全体として、昨年同様、教科書・資料集レベルで学習できていれば対応可能な問題が多く、努力に見合った得点が期待できる標準的な難易であった。
2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数6、解答数36個で、昨年と同様。
【出題形式】 昨年に比べ、6択・8択の組合せ問題が増加(2→7)。統計資料の読み取り問題は微増(1→2)。
【出題分野】 第2問では経済分野と政治分野、第5問では国際経済・国際政治・国際化などが融合的に出題された。国際分野の出題は、昨年2大問にわたっていたものが1大問に統合されたため、大きく減少。一方で、環境、青年期など、各分野からバランスよく出題され、課題追究(調べ学習)の出題も継続された。
【問題量】 6択・8択の組合せ問題が増加したことで、ページ数はやや増加した(30→36、白紙ページ含む)。
【難易】 昨年並。
3.大問構成

大問 出題分野・大問名 配点 難易 備考(使用素材・テーマなど)
第1問
日本の司法制度と人権
14点
標準
政治(5設問)
第2問
戦後日本社会の変化と地方自治
22点
標準
経済、政治、課題追究(8設問)
第3問
技術革新と経済・社会の変容
14点
やや易
経済(5設問)
第4問
環境問題
14点
やや易
経済、地球環境問題(5設問)
第5問
経済のグローバル化と国際社会
22点
やや難
経済、国際経済、国際化、国際政治、政治(8設問)
第6問
青年期
14点
青年期(5設問)
4.大問別分析

第1問「日本の司法制度と人権」

  • 司法制度や人権、大日本帝国憲法・日本国憲法まで、幅広く出題された。
  • 問1は、今年5月に開始される裁判員制度について、説明文中の空欄に入る語句の組合せを求めた8択の問題。世間の注目も集まっている事項であり、基本的な仕組みを理解できていれば解答可能であった。
  • 問1のほかにも、問2で犯罪被害者の権利、問3で司法制度改革が扱われるなど、時事的な内容が多く含まれていた。ただし、問2は法廷でメモを取ることが適法であること、問3は最高裁判所の指名した者の名簿によって下級裁判所の裁判官が任命されることがポイントで、司法制度について確実に学習していることが求められた。

    第2問「戦後日本社会の変化と地方自治」

  • 戦後の日本社会の変化について、農業、流通、社会保障などの経済分野と、地方自治などの政治分野が、融合的に幅広く問われた。
  • 問2は、日本の小売業に関する出題。正答の選択肢3は、代表的な例としてイトーヨーカドーとセブンイレブンが系列関係であることなどを思いつけば判断できる。同様に、選択肢2はAmazonなど、選択肢4は三越と伊勢丹などの例を想起できれば判断しやすかったであろう。
  • 問7は、「三位一体の改革」についての出題。国から地方への税源移譲を理解できていても、それが「所得税の一部を個人住民税に移譲するというかたち」かどうかの判断は難しい。改革で地方交付税の総額が減らされたこと、国庫支出金は使途が限定されていることなど、正答以外の選択肢から判断していき、消去法的に解答した受験生もいただろう。
  • 問8は、課題追究(調べ学習)に関する出題。調査研究を行う際の作業目的と、具体的な作業との組合せを判断する問題であった。多くの調査対象者から情報を集めるのには郵送アンケートが適していること、インタビューが対面調査であることなどを落ち着いて判断していけば、解答は容易であった。

    第3問「技術革新と経済・社会の変容」

  • 技術革新の持つ意味を切り口に、知的所有権、経済学者の主張、ベンチャービジネス、企業の社会的責任など、経済分野から幅広く出題された。
  • 問3は、経済発展の学説と、それを唱えた学者との6択の組合せ問題。リカード、シュンペーター、ペティとクラーク、アダム・スミスらについて、「比較優位」「創造的破壊や技術革新」などのキーワードとあわせた理解が求められた。ただし、組合せの形式上、リカードとアダム・スミスがわかれば正答が確定できる。代表的な経済学者について、まとめ表などを用いて網羅的に学習できていれば、解答は難しくなかったであろう。
  • 問4は、ベンチャービジネスに関する文章中の空欄に入る語句の、8択の組合せ問題。シリコンバレーでのベンチャービジネスの隆盛、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルなど、やや時事的な話題が扱われた。

    第4問「環境問題」

  • 環境問題について、日本や世界の事例、その取り組みについて、幅広く考えることが求められた。
  • 問1は、外部不経済に該当する具体例を選ばせる問題。内部経済や外部経済に該当する事例が巧みに配置されており、用語の意味を正確に理解していないと判断しにくい。正答3の騒音が、公害だとわかれば解答可能。 
  • 問3は、環境問題に対して好ましいとされる取り組みが、別の問題を引き起こしうるという、多面的な考察を求める出題。「自家用車でリサイクルステーションまで古紙を運ぶ活動」が盛んになれば、「森林資源使用量」が減るかわりに「古紙運搬時のエネルギー使用量」が増大するという二律背反が起こる。知識を要さないため難易度としては易しいが、一面的な理解に基づいた安易な環境保護に警鐘を鳴らし、受験生に気付きをもたらす出題といえよう。
  • 問5は、廃棄物問題に関する出題。家電リサイクル法の対象品目を「テレビ・冷蔵庫・洗濯機・エアコンである」と具体的に問われると判断しにくいが、リユースとリサイクルの違いなどの各選択肢を確実に判断していけば、消去法で解答が可能。ただし、厳密には2004年4月に「冷凍庫」も対象に追加されているため、正確な知識を持っている受験生にとっては、判断に迷う問題であった。

    第5問「経済のグローバル化と国際社会」

  • 経済のグローバル化による国際社会の変化を切り口に、国際経済と国際政治、国際化(異文化理解)など、幅広く融合的に出題された。
  • 問2は、1990年代にアジアなどで起こった通貨危機についての出題。通貨危機の原因として、ヘッジファンドなどによる短期資金の引き揚げがあったことを学習できていたかが問われた。
  • 問4は、留学生に関する統計資料の読み取り問題。選択肢によっては簡単な計算(9割を超えているかどうかなど)も求められたが、正答選択肢は単純な数値の比較のみで判断でき、易しい。
  • 問5は、異文化理解に関する用語の6択の組合せ問題。マルチカルチュラリズム、ステレオタイプ、エスノセントリズムについて、その説明文との組合せが問われた。
  • 問7は、日本における外国人の人権状況についての出題。正答4は、外国人にも請願権が保障されているという事項で、積極的に判断するのはやや難。定住外国人への地方参政権、外国人の単純労働の資格での入国禁止などの誤答選択肢を確実に判断していけば解答できた。

    第6問「青年期」

  • 青年期について、基礎的な知識・理解を求める出題であった。なお青年期は、受験生の得点しやすい分野であるが、今年は最後の大問に配置され、統計資料の読み取りのほか8択の問題も2問配置されたことから、昨年に比べると十分に時間をかけられなかった可能性がある。ただし、落ち着いて取り組めていれば、他の大問に比べて得点しやすかったであろう。
  • 問2は、男女の役割観についての統計資料の読み取り問題。2つの資料を見比べ、数値の大小などを単純に読み取っていけば判断できる。落ち着いて取り組めれば解答は容易であった。
  • 問3は防衛機制、問5はアイデンティティ拡散に関する8択の組合せ問題であった。なお、問3の防衛機制と説明との組合せを求める問題は、2008年度第3回ベネッセ・駿台マーク模試(第5問・問3)とほぼ同様の出題。本模擬試験を受験し復習していた受験生は、確実に得点できたであろう。
    5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

    年度 2008 2007 2006 2005 2004
    平均点
    60.55
    50.31
    57.91
    70.22
    57.27
    6.2010年度センター試験攻略のポイント

  • 時事的な内容も出題されるので、日頃から新聞記事やテレビニュースを確認しておくこと。社会で何が起こっているのかを主体的にとらえて考える習慣をつけておくことが重要である。
  • 苦手分野を残さず、具体的な意味・内容に踏み込んで学習しておくこと。今年は国際分野の出題が例年よりやや少なかったが、来年以降は、揺り戻しでの出題増加もありうる。また、経済分野で経済理論の理解を問う出題などは、単語名のみを暗記する学習では対応できない。仕組み・原理までおさえておくこと。
  • 設問文を落ち着いて読み、問われている内容を確実に理解すること。選択肢の文章自体に矛盾や誤りがあるのではなく、設問文の題意に合致するかどうかを問う出題も一部に見られるので、類題の演習を行っておくこと。
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