問題講評
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国語

1.総評

【2009年度センター試験の特徴】 

・大問構成は例年どおり。設問数は昨年と同じだが、解答数は全体で2個減少した。
・問題文の分量が昨年より大幅に増加した。そのうえ、選択肢が紛らわしく、解答に時間がかかる設問があったため、全体としてやや難化した。
・出題形式としては、古文では昨年はなかった和歌の出題が復活し、また、漢文では文ごとの表現と内容の特徴を問うという目新しい出題があった。


 すべての大問で、問題文の分量が増加しており、そのうえ、現代文・評論の問2や古文の問3など一部の設問で、選択肢が紛らわしく、解答に時間がかかるものが見られた。そのため、多くの受験生は時間との勝負を強いられたであろう。時間配分に注意しながら、最後まで平常心で取り組めたかどうかがポイントであった。また、古文で和歌の表現技法とその効果を問う難度の高い出題、漢文で新傾向の出題が見られたため、戸惑った受験生もいたかもしれない。
2.全体概況

【大問数・解答数】 昨年と比較して、大問数4、各大問の配点50点は変更なしであった。解答数は、評論、小説、漢文で変更はなく、古文は2個減(10→8)で、全体で2個減(38→36)であった。
【出題形式】 評論や小説で、若干の形式的な変更はあったものの、ほぼ昨年と同様の出題であった。古文では、文法の問題として敬語に関する出題があった。また、和歌に関する出題が復活した。漢文では、熟語の意味、主語判定が久しぶりに出題された。文ごとの表現と内容の特徴を問うものなど、目新しい出題もあった。
【出題分野】 近代以降の文章2題(評論・小説)、古文1題、漢文1題という構成に変更なし。
【問題量】 問題文の分量は、評論で600字程度増加(3600→4200)、小説で200字程度増加(4100→4300)、古文で400字程度増加(1400→1800)、漢文で10字増加(181→191)し、全体として大幅に増加した。
【難易】 昨年よりやや難化。
3.大問構成

大問 出題分野・大問名 配点 難易 備考(使用素材・テーマなど)
第1問
現代文・評論
50点
やや難
栗原彬「かんけりの政治学」
第2問
現代文・小説
50点
標準
加賀乙彦「雨の庭」
第3問
古文
50点
やや難
『一本菊』
第4問
漢文
50点
やや難
侯方域『壮悔堂文集』
4.大問別分析

第1問「現代文・評論」(約4200字)

  • 問題文については、近年出題の続いていた芸術論・文化論から転じて、社会論が出題されたことが特徴的。1984年に発表された、やや古めの評論文であるが、現代にも通じる内容と言えよう。「隠れん坊」や「陣オニ」「かんけり」など、子どもたちのゲームが持つ社会的な意味をそれぞれきちんと整理しつつ読めたかどうかが読解のポイントであった。字数は昨年より増えたものの(3600→4200)、抽象度はそれほど高くなかったため、文章自体は読みやすいものであった。しかし、問2のような選択肢の吟味に手こずる設問や、問4など部分的な読み取りではなく文章構造をおさえた理解が必要な設問もあり、昨年よりやや難化した。
  • 問1で漢字を問い、問2・問3で前半部分の読み取り、問4・問5で後半部分の読み取りを試し、問6で文中における具体例や引用の役割を問うという設問構成は昨年と同様であった。ただし、問6は、昨年の2題で各4択という形式から、1題で6つの選択肢から2つの正答選択肢を選ぶという形式に変更された。
  • 問1は例年どおり漢字設問であるが、2009年度は訓読みの出題がなかった。(ア)の「コウジョウ(恒常)」や、(ウ)の「タカ(多寡)」は語彙レベルが高い。選択肢も難しいものが多く、基本的な語彙が多かった例年の出題に比べ、やや難化している。
  • 問2は、傍線部Aの直前で述べられている「隠れん坊」の特質から、「隠れん坊」と「複数オニ」「陣オニ」との違いを正確に読み取れば正解できる。しかし、選択肢4は問題文後半部の中心点である「管理社会のコスモロジー」に触れられているので、これを正解と考えた受験生も多かったであろう。また、正答選択肢3では、「完全に」という表現があるので、「決して」「まったく」「〜のみ」などの表現が入った選択肢は誤りだとする受験テクニックだけにひきずられると解けない設問である。
  • 問3は、傍線部Bより前に書かれている「複数オニ」「陣オニ」「高オニ」と「人生ゲーム」の特徴を正確につかめば正答を導き出せる。難度は低いので、確実に正解しておきたい設問である。
  • 問4は、傍線部Cより後の論の構成がつかめたかどうかがポイント。傍線部C直後では、傍線部Cに至る一段階前の説明から述べ直し、その段落末から次の段落にかけて傍線部Cの説明をしているという論の構成になっていた。傍線部Cの直後の文章だけを解答の根拠として解こうとすると誤ってしまう。読解力の差があらわれる設問である。
  • 問5は、「かんけり」の遊びのなかに含まれる「アジール(避難所)」について問うた設問であった。「アジール」に着目できないと、選択肢2を選んでしまうかもしれない。文章を構造的にとらえることで、前段落にアジールの説明があることを見抜き、「アジール」の性質である「安堵感」を読み取ることができれば正答にたどり着けた。これも読解力の差があらわれる設問である。
  • 問6は、前述のとおり形式は異なるが、引用や具体例などの文中での役割を問うねらいは昨年を踏襲している。難度はそれほど高くないので、確実に正解したい設問である。

    第2問「現代文・小説」(4300字)

  • 昨年の問題文は、明治期の文豪からの出題で、時代性の強い文体であったため、とっつきにくさを感じるようなものであったが、今回は現代小説で比較的取り組みやすかったであろう。しかしながら、主人公が若者であった昨年に対して、受験生から年齢の離れた登場人物であったため、その心情を深く理解することが難しかったかもしれない。また、文章の流れが時間の流れそのままとなっておらず、現在の時点から過去の日のことを振り返り、そこからさらに過去の思い出を振り返るという時間を重層化させた構成になっているので、そのような小説に読み慣れていない受験生は読解に苦労したであろう。さらに、「家」を心理の象徴として描いている小説でもあり、そこに気づくことも読解上のポイントとなっていた。取り組みやすさの一方で、人物の心情などの内容面を正確に理解するには、深く吟味する必要があったのが今回の問題文の特徴であった。
  • 問1で語句の意味を問い、問2〜問5で登場人物の心情の理解を試し、問6で問題文の表現の特徴を問うという、オーソドックスな出題形式であった。
  • 問1は、語句の意味に関する設問であるが、(ア)「無聊」、(イ)「沽券にかかわる」、(ウ)「はかが行く」のいずれも語彙レベルが高く、特に(ア)と(ウ)は文脈から類推しても正答を選びにくかった。難度の高い設問である。
  • 問2は、傍線部Aの4行先にある「その気持を表現するとしたら黙り込む以外にないのかも知れない」がヒントとなる。しかし、これだけを解答の根拠として解こうとすると誤って選択肢5を選んでしまいかねない。文章全体で表現されている「父」の人物像を把握したうえで、「父」にとって「家」とはどのような存在であるのかを読み取ることが求められる。読解力の差があらわれる設問である。
  • 問3は、傍線部Bの直前だけを読んで答えようとすると選択肢3を選びかねない。傍線部Bの後に書かれている過去の思い出を振り返ったうえで、「彼」が「父」に対してどのような気持ちを持っているのかを把握しなければ正答を導き出せなかった。直接的なヒントとなる箇所が明確でなく、文章全体から読み取れる「父」と「彼」との関係も解答要素とした設問であり、問2に続き、読解力の差があらわれる設問と言えよう。
  • 問4は、「父」の「家」への愛着から、「彼」の「家」への愛着へと話が展開していることを読み取らせる設問。この展開が理解できていれば、さほど迷わず解けたであろう。
  • 問5は、傍線部D前後だけで解答しようとすると正答が選べない。正答選択肢4の「家を愛惜する自分のやるせない思い」という心情は、問題文で直接的に表現されてはいない。そのため、問4で問われた、「父」の「家」への愛着から「彼」の「家」への愛着への展開を踏まえて、問題文全体の読解からその心情を把握しなければならなかった。これも読解力の差があらわれる設問である。
  • 問6は、近年続けて出題されている、表現の特徴を問う設問。まず前述の「時間の重層化」を読み取れているかどうかがポイント。また、主語がすべて三人称で書かれているが、どこに視点が置かれて物語が進んでいるのかもポイントであり、その点を正確に把握していないと、選択肢3を選んでしまうかもしれない。この視点の置かれ方の把握は、2006年度の松村栄子「僕はかぐや姫」でも見られたポイントであり、センター試験の小説読解における重要なポイントの一つであると言えよう。

    第3問「古文」(1800字)

  • 室町時代の擬古物語からの出題。御伽草子の一つ。難解な単語や表現はそれほど見られず平易な文章であるため、丁寧に読んでいけば内容把握自体はさほど苦労しないであろう。しかし、問題文は昨年よりも400字程度増加(1400→1800)し、長文化しているうえ、注が14個と多くあった。さらに、人物が多く出てくるので、人物間の関係性を落ち着いて丁寧にたどらないと混乱してしまう可能性がある。受験生は読解に時間を要したものと思われる。
  • 問1は古語に関する設問、問2は敬語に関する設問、問3は和歌の表現技法とその効果に関する設問であり、問4から問6が内容読解に関する設問であった。古語と敬語にかかわる設問を除き、傍線部が一箇所にしか付されていないことは珍しい。また、昨年はなかった和歌に関する出題が復活したことと、2005年度以来4年ぶりに敬語に関する出題があったことが特徴と言える。
  • 問1は、例年と同じく古語に関する出題である。(ア)(イ)は基本単語を扱ったもので、確実に正解しておきたい。このなかでは(ウ)がやや難。「いかに」などの重要古語の理解に加え、前後の文脈から総合的に判断する必要があった。
  • 問2は、敬意の対象のみではなく、敬意の主体をも問うている。近年敬語の出題があった2003年度、2005年度においては敬意の対象のみを問うものであったため、敬意の主体まで設問化されているのは目新しいと言える。問われている敬語自体はよく目にするものであるため、かぎ括弧を目印にしながら人物関係を整理することが求められた。ここで登場人物を整理できていると後の設問が解きやすくなるため、確実に正解しておきたい設問であった。
  • 問3は、適当でない選択肢を選ぶ設問で、5択のうち4択が正しい説明であるため、この設問を考えることが読解の手がかりにもなった。しかし、正答である選択肢3は、前半部は正しく、後半部が誤っているが、ここを誤りと把握することは序詞の知識のない受験生にとってはたいへん難しい。難度のかなり高い設問である。
  • 問4は、傍線部X直前にある「めざまし」がヒントになった。普段の学習の成果が出る設問であったと言える。また、前後の文脈を理解できていれば、誤答の選択肢における誤りの箇所は見つけやすいものであったので、比較的易しい設問であった。
  • 問5は、文章を通して、兵衛佐の妹に対する兵部卿宮の気持ちがどのように変化したのかを問うている。各選択肢の根拠となる部分が問題文の全体に散りばめられているので、解答に時間がかかったであろう。しかし、誤答選択肢における誤りの内容ははっきりしているので、文中の根拠となる箇所を的確に見つけることができれば、迷わず解答できる。
  • 問6は、内容合致の設問。問5同様に選択肢の根拠となる箇所が問題文全体に散りばめられているうえ、選択肢の順序と問題文の話の流れとが合致していないので、解答に時間がかかったであろう。選択肢1が誤りと判断しづらかったであろうが、注4によって式部卿宮が父ではないことがわかる。注釈までしっかり読んで解答する姿勢が求められた。また、正答選択肢5にある「一家を栄えさせる好機」が文中で根拠の箇所を見出しづらいが、父母のいない女性にとって、後見人を得ることはその家を栄えさせるために大切なことであった。そのような古典常識をも求められた設問であった。

    第4問「漢文」(191字)

  • 清代の文学者である侯方域の詩文集からの出題。筆者の主張と史実とを明確に区別して読み進めることが求められた。また、注が13個と多いうえ、一つ一つ確認していかなければ文章を理解できないようになっていた。そのため、古文同様、書かれている内容自体は平易であったものの、受験生にとっては時間がかかる出題であったと言えよう。
  • 問1の熟語の意味、問2の書き下しとその解釈、問3の主語判定は、過去の出題形式が復活したものであった。一方、問4は、一文ごとの表現と内容の特徴を問うもので、漢文の総合的な知識の有無が問われる目新しい出題であった。問5・問6は、内容読解に関する設問であった。
  • 問1は、熟語の意味を問うたもので、2005年度以来4年ぶりの出題であった。(ア)は、やや難。選択肢1と迷うが、「寧歳」の「寧」の字から「安寧」を連想するとともに、注釈の内容も踏まえて、正答を導き出したい。(イ)は、前後の文脈を踏まえ、「相」「類」それぞれの語の意味を考えれば解答できた。標準的な難度であった。
  • 問2は、書き下しと解釈を問うたものであり、2007年度以来2年ぶり(2007年度は返り点の付け方も設問対象であった)の出題であった。問題文の趣旨から「過」の読み方を把握できれば選択肢が絞れる。「帰」をどう読むかで、語彙力の差が出たであろう。
  • 問3は、2001年度以来久しぶりに出題された主語判定の設問であった。難易は標準的だが、(イ)の主体を正確に把握できるかどうかで差がついたであろう。
  • 問4は、比喩や、仮定や反語などの句法、四字熟語「臥薪嘗胆」の意味など、漢文における総合的な知識を問うものであり、目新しい出題であった。一文一文の解釈だけでなく、その一文が問題文全体のなかでどういう役割を果たしているのかというところまで吟味しなければならないので、受験生にとっては時間がかかる設問であっただろう。
  • 問5は、傍線部Bより前に「年を同じくして語るべからず。而れども……」とあるので、傍線部Bの内容がこの部分と対比されていることが読み取れていれば正答が導き出しやすくなる。文中における対比構造をつかみ取る力が求められた設問であった。難度が高い設問である。
  • 問6は、筆者の「引用の意図」を問うことで筆者がこの文章を書いた意図を読み取らせる設問であり、配点が10点と高めの設定となっていた。選択肢3と4で迷うであろう。選択肢3の「常に困難を極める」を誤りと判断できれば正答が導き出せるが、難度は高い。
    5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値) ※2005年以前は国語I・IIの平均点です。

    年度 2008 2007 2006 2005 2004
    平均点
    121.64
    109.95
    125.52
    119.55
    114.15
    6.2010年度センター試験攻略のポイント

  • 2009年度のセンター試験では、問題文の分量が大幅に増加し、時間配分がうまくいかず、最後まで平常心を保って解答を進めることが困難であった受験生も多かっただろう。普段から時間を計って演習に取り組み、ある程度分量のある出題であっても最後まで平常心を保てるように、速読力や解答スピードを高めておくことが必要である。
  • 全大問を通じて、文章の細部を詳細に読解できているかだけではなく、問題文全体の構造を理解できているかを試す出題が多かった。「木を見て森を見ず」の読解にならないよう、文全体を頭の中で図式化して構造的にとらえる演習を繰り返し行いたい。
  • 評論の漢字の設問や、小説の語彙に関する設問などにおいて、難度の高い語句が出題されている。たとえ普段の生活ではあまり使わない漢字・語句であっても、教科書や演習で出会ったものについては、辞書などで意味を確認し、用法を含め頭に入れておきたい。
  • 評論では、文中の引用や具体例の働きに関する設問が2年連続で出題された。新傾向の出題であるため、演習できる問題数が不足しており、問題演習だけでは力をつけることが難しい。そのため、教科書や問題演習など普段の学習のなかで出会った素材において、「引用や具体例がどのような働きを担っているかを確認する」ことを通じて、確実に力を身に付けていきたい。
  • 小説は、登場人物の心情を確認する設問や、表現技法に関する設問が出題される。文章を読み進めるにあたって、情景や登場人物の心情の推移の把握を、技法に注意しながら丁寧に行うことが大切である。また、特有の表現に慣れるためにも明治期の作品や、自分とは年齢の大きく異なる人物が出てくる作品など、ジャンルやテーマ、時代を限定せず幅広い読書経験を積んでおきたい。
  • 古文・漢文では、過去に出題された形式の復活や、新傾向の出題が見られたが、正確な知識と読解力を持っていれば充分対応可能である。まずは基礎基本の徹底が必要である。古文であれば、古文単語、文法(敬語を含む)、和歌の修辞、古文常識や文学史など、漢文であれば、重要語、再読文字や句法などを繰り返し復習することで、基礎事項を正確に覚えておきたい。そのうえで、どのような形式の問題が出題されてもあわてることのないよう、演習を積み重ね、古文・漢文の読解力を養うことが肝要である。
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